クリストフ・マルターラー『巨大なるブッツバッハ村ーある永遠のコロニー 公演情報 フェスティバル/トーキョー実行委員会「クリストフ・マルターラー『巨大なるブッツバッハ村ーある永遠のコロニー」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    永遠のハーモニー
    ガレージ、事務所、居間が合体融合した、いびつなはずなのに恐ろしい程に
    調和の取れた舞台空間に、反対に空虚で弛緩し切った動きや言葉。
    そして、そこを突き破るようにハッキリと聞こえる人々のハーモニー。

    でたらめに投げ込まれているように見えて、実は観客の集中力を
    途切れさせないよう、ちゃんと構成された進行もあって、二時間以上の
    決して分かり易いとは言いにくいこの劇を最後まで楽しむことが出来ました。

    最後のシーンは静かで、それでいて本当に感動的です。
    これだけで、観に来た意味があるといえます。

    ネタバレBOX

    序盤から、新聞記事、人々の手記、人文書、哲学書、文学書からの
    カットアップされた引用、援用の台詞の応酬が続く。 大半は意味が
    分からないけど、時折「資本主義」に対する言及があったりして刺激的。

    ほとんどの引用元は分からなかったけど、ナオミ・クラインの議論を
    踏まえてあったり、ジェレミー・ベンサム『立法と道徳の原理序説』のからの
    一節が銀行の出納係の台詞として引用されてたりしました。
    元ネタが分かる人はもっと楽しめると思います。

    人間カンナ(笑)でほどほどに笑いを取ったり中盤までは役者の緩慢で
    どこかユーモラスな動きに焦点を当てていく。 正直、ゆっくり過ぎて
    キツいのだけど、ちょうどいいタイミングで合唱を入れてきたりと、
    とにかく構成が上手い。

    中盤。序盤から頭を見せていた「資本主義」、というより、その裏側に
    隠されているモノ、資本主義を屈折させていく人々の「虚栄」「欲望」
    「学習しなささ」が徹底的にあげつらわれ、コケにされる。

    序盤では、かの金融崩壊で家具を差し押さえられ、泣き出す人々の
    様子が描かれたりと、米国震源地であるリーマンショックが海の向こうの
    ヨーロッパに与えた影響、またそのことに対する怒りと強烈な批判が
    この作品の背景にあります。 

    かのリーマンショックで財産を失った為、ガレージを美容院に改装
    せざるを得なくなった女が、いずれは失ったはずの金は戻ってくるはず、と
    まるで根拠の無い願望を吐露しながら、銀行員に無利子での貸付を依頼。

    その少し前の場面では、ブランド物やPC等人々の欲望を喚起するような
    商品群が舞台の端で次々にゴミ箱に投げ込まれ、捨てられていく。

    中盤は、上記のエピソードに加え、相当過激な口調で「人々の欲望が
    経済成長につながる」「経済成長あってこその、幸せな暮し」といった感じの
    言説がぼっこぼこにされます。 相当痛快で面白いけど、それまでの
    緩さからの急展開ぷりにギャップを感じざるを得ない(苦笑

    いや、でも、某国政府の首脳陣や○前○一みたいな経済評論家陣にも
    観せてあげたいですよ、本当に。

    最後、人々が全員でガレージに閉じこもり、「生命の息吹」の歌を合唱する。
    警官に扮した体制側がガレージの扉を閉ざしても、歌は決して消える
    事が無く、静かに、しかし、力強く歌い続けられる。 ガレージのシャッターを
    超えて舞台の上、客席の人々の頭上に、そう、暗転するまで。 ずっと。

    それまでの生気の無い雰囲気から一変、地の底のような閉塞した舞台
    空間からまるで芽がゆっくりと確かに芽吹くように。

    人々が、資本側の人間で無い、一般の人々が生命賛歌を口ずさむ。

    その時、この歌は人々の「再生」を意味すると共に、現状にはびこる
    人間を操り人形としてしか捉えないねじ曲げられた資本体制への
    カウンターパンチ、再び立ち上がった彼等の「革命歌」の役割をも
    同時に果たしたのです。 

    地味だけど、最高に美しい瞬間で、力づけられる、人間的な歌の響き、
    時間でした。 全てが素晴らしかったです。

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    2010/11/19 22:41

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