焼肉ドラゴン 公演情報 新国立劇場「焼肉ドラゴン」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    第一幕90分休憩15分第二幕75分。

    チェーホフの『三人姉妹』をだぶらせる人が多いと思う。立ち昇る諦念は『ワーニャ伯父さん』や『桜の園』にも。人生を蹂躙される不合理を運命だ宿命だと無理矢理受け入れ生きていかざるを得ない。無力なんだ、人間は。でもそれだって気持ち次第だろう。気持ちの持ちようで何とか生きていける。それはどんな気持ちなのか?一体どんな?

    飛行機が近くを飛ぶ度に轟音と振動、桜の花が音を立てて散ってゆく。ピンクの雨がスラムのトタン屋根を染め上げる。少年はそれが好きで好きで堪らなかった。明るかった少年は日本人ばかりの私立中学校に入れられ差別と虐めで失語症を患う。登校拒否で日がな屋根の上に登り自分の世界に浸った。こんな町は大嫌いだ!こんな連中は大嫌いだ!自分の出自を呪うように汚らしいゴミの町を睨みつける。そんな町を一瞬にして桜吹雪が塗り替えてくれる。

    1969年春、大阪国際空港に近い伊丹市中村地区、国有地を不法占拠して暮らす在日韓国人の集落。太平洋戦争で左腕を失くした隻腕の男、金龍吉〈キム・ヨンギル〉(イ・ヨンソク氏)の営む「焼肉ドラゴン」。妻(コ・スヒさん)、右足の悪い長女(智順〈ちすん〉さん)、次女(村川絵梨さん)、クラブで働く三女(チョン・スヨンさん)、中学生の長男(北野秀気氏)。
    常連客の太った陽気な櫻井章喜(あきよし)氏、アコーディオン奏者の朴勝哲(パク・シュンチョル)氏、韓国太鼓(チャング)奏者の崔在哲(チェ・ジェチョル)氏。櫻井章喜氏の親戚であるキム・ムンシク氏が時折顔を出す。彼はリヤカーにドラム缶二つ載せて5km離れた豊中まで豚の餌としてうどんの茹で汁を貰い受ける仕事をしている。
    次女の婚約者、千葉哲也氏、大学出だが仕事が続かず遊んでばかりいる。
    三女の働くクラブ支配人、石原由宇氏。かっぽれが持ちネタで多才な男。歌手を夢見る三女は彼に夢中。
    砂利をトラックで運搬して羽振りのいい韓国人、パク・スヨン氏は舞の海似。

    1970年に大阪万博が開催される為、都市開発の名のもとに朝鮮部落の解体が強制執行、1971年までの物語。

    お父さん=アボジ、パパ=アッパ。
    お母さん=オモニ、ママ=オンマ。

    「これが私の宿命なのか···。」といつも嘆いているコ・スヒさん。
    「たとえ昨日がどんなでも、明日はきっとえぇ日になる。」と自分に言い聞かせるように呟くイ・ヨンソク氏。
    「帰るところはない。日本で生きていくしかないんや。」

    キャスティングが神懸かっている。当て書きとしか思えない。この中で暴れ回る千葉哲也氏は日本代表の貫禄。
    必見。

    ネタバレBOX

    開演20分前から舞台上で宴会が始まっている。チョン・スヨンさんが日本の歌を熱唱。巧い!集落に一つしかない共同水道で智順さんが食器を、松永玲子さん扮する婆さん(何と彼女は三役!)がホルモンを洗う。松永玲子さんは聴こえて来る歌に合わせてノリノリに踊る。

    休憩時間にはロビーにて朴勝哲(パク・シュンチョル)氏と崔在哲(チェ・ジェチョル)氏の演奏会。帽子に括りつけられた白く長い紐をぐるぐる回転させながらチャングを叩く妙技。拍手喝采。

    演劇をチェサ(韓国の亡くなった先祖を祭る儀式、全ての子孫が命日に集まり用意した御馳走で冥福を祈る)に準えた作者の鄭義信(チョン・ウィシン)氏。まるで目の前に死者がいるかのようにもてなしていく祭祀。無数の無縁仏、無数の流離う人々に贈る一夜だけのチェサ。観客はチェサに集う親族であり、チェサに祀られる無縁仏でもある。(パンフレットの内田洋一氏の文章は必読)。

    今回は自分の体調面に問題があって、完全に作品を味わえたとは言えず。12月の凱旋公演のチケットを買った。
    鄭義信氏「今回(12月)の中劇場公演をもって『焼肉ドラゴン』はラストステージとなります。」
    観ざるを得ないだろう。

    ※ラストシーンは吉田拓郎の『唇をかみしめて』みたいな気分。

    理屈で愛など手にできるもんならば
    この身を賭けても 全てを捨てても
    幸せになってやる
    人が泣くんよね 人が泣くんよね
    選ぶも選ばれんも 風に任したんよ

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    2025/10/21 00:22

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