公演情報
劇団文化座「蛍の光、窓のイージス」の観てきた!クチコミとコメント
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2025/10/19 (日) 14:00
座席1階
さすがに現役高校教師の劇作家畑澤聖悟の台本。リアリティーは抜群で、しかも出身地秋田県が物語の舞台。北朝鮮のミサイルを打ち落とすためだとして2017年、政府が秋田と山口に陸上発射の迎撃ミサイルイージス・アショアの配備を発表した。「学びやから見える美しい海岸線の景観や思い出を台無しにしないで」と女子高生が盛り込んだ卒業式の答辞をめぐる物語。生徒と教師による、職員室を舞台にした群像劇だ。
きっかけは、文化座創設者の佐佐木隆の娘、佐々木愛が差し出した一冊の本だったという。秋田の地元紙・秋田魁新報が菊池寛賞を取るほどの渾身の取材記録で、文化座が畑澤に書下ろしを依頼していた時に提案した。「国防のために政府が決めたこと」という意見も含め、地元の人たちがどんな思いでイージス計画を見つめていたか、卒業式当日午前の動きに凝縮している。
文化座は畑澤の「親の顔を見たい」も上演していて、畑澤への期待度は大きい。文化座ファンも含めた期待に、畑澤は多くの社会的課題を盛り込んで説得力のある戯曲に仕上げた。さまざまな理屈付けによる大人の論理で生徒に迫る場面や、教師が自分の意見を述べてその論理から生徒を守ろうとする場面など、教育現場が抱える問題や現状もストレートに伝わってくる。
そもそも迎撃ミサイルなど百発百中ではない。打ち漏らしもあるから、迎撃のための基地が標的になって破壊される危険性も大きい。また、北朝鮮が太平洋を越えてアメリカを狙ったとして、そのミサイルを打ち落とした日本は当然、戦争に加担したとして報復の対象になるだろう。基地は市街地にある。攻撃されれば多くの人が死ぬ可能性があり、こんな計画を打ち出したということは、国は有事に国民を守らないという証明である。そんな大惨事につながる可能性のある武器に何千億とつぎ込み、アメリカの言い値で購入した政府への皮肉もしっかり盛り込まれていた。
そうした「モノ言う演劇」でありながら、教師と生徒による青春ものとしても楽しめる。多くの生徒が高校卒業後に故郷を離れてしまう中で、地元の大人たちはどう生きていくべきなのかも問いかけている。
ちょい役ではあるものの重要な役柄で、今回も高齢の佐々木愛が舞台に上がっている。「ゴッドマザー」と呼ばれる役だが、現実も文化座のゴッドマザーであるようだ。終演後のアフタートークで、演出の西川信廣が舞台裏を明かしていた。彼も言うように、文化座らしい芝居をどう若い役者たちに受け継いでいくか。この作品を各地の学校で公演してほしい。文句なしでお勧めの舞台だ。