幸せになるために 公演情報 “STRAYDOG”「幸せになるために」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    二度目のSTRAYDOG。毎回公演の案内を見るに予想がつかないこれも一つ。ただ想像の範疇は一度目に見た「俳優たち」の空気感、年齢層が20代~30代という所(ベテラン勢も若干数は居るのだろうけれど)から来る芝居の質感も固有のそれで、父役と子役を同じ年代のキャストがやるものだから、とりわけ今回のような群像劇は最初は混沌として見える。
    だがそんな「見えにくさ」はやがて溶解し、ドラマがなだれ込んで来る。
    メタ性を遊ぶ感覚(客への意識の顕在化)で軽やかさを出しながら、今作が取り上げるシビアな題材に直裁に語らせるという事がある。少なからず驚かされた。
    観始めて「おや?」と見ると鳥居みゆきであった。異質な存在も包摂して成り立っている芝居。ドキュメントとフィクションの狭間で後者の強い作風にもかかわらず、強烈に芝居に突入してくるドキュメントも包摂される。後日ネタバレ含め追記。

    ネタバレBOX

    日航機墜落事件(1985年)を扱った舞台として思い出すのはNODAMAP「フェイクスピア」(シェイクスピア四大悲劇やイタコと絡めて最後の最後にこの事件がジャンボジェット機の機首が突如顕われるかのように顕われ仰天、震撼となったものである)。公演概要も読まずに観劇に及んだが、「あの事件」を描いた作品である事は序盤で説明され、回帰的に乗客それぞれの前日譚を描く形になっている。つまりはNODAMAPとは真逆のネタバレ先行だが、歴史事実と向き合う正当な順序ではあり、オーソドックスなドラマの構成でもある。冒頭そして最後を客室乗務員役として引受ける客演・鳥居みゆきが独特な演技だが不思議な存在感。そして本編の大部分は坂本九をモデルとした一家を含む五組の乗客家族の「死へと向う」それぞれの人生模様と日常であるが、事故を挟んだ「その後」の姿、証言もある。また予期せぬ要素として、一部で囁かれている救助を遅らせた真の原因=墜落原因は米軍機との接触でありその隠蔽のために時間を要したとの疑惑を取り上げ、語らせる。
    時間を戻して5家族の群像・・九ちゃん一家は音楽畑の妻と娘。父母を離れて初めて三姉妹そろっての大阪旅行、細部は忘れたが家族思いの父を送り出す妻と長男とその妹、老父母が送り出した娘、そして別れた夫も同意で息子を一人で大阪行きの飛行機へ乗せた母(鳥居)。日航123号がついに飛び立つ。機体後部で激突音がする。事態が急を告げ、RED THEATERの縦二列の通路を客室乗務員が右往左往し、劇場全体が緊迫の空気に飲まれる。既に人物たちに共鳴している心がその現場へと同道させる。カウントダウン、地上激突の瞬間(閃光と衝撃音)、そして救助場面へとなだれ込む。その前段に救助に当った自衛隊員の、今まさにヘリから降り立った時点を描写する語り=証言がある。バラバラに散った肉片を見た救助隊員らの衝撃を迷彩服の男らが限界ギリギリの声量と速さで伝える。戦場や災害で衝撃的場面に遭遇した人間は反射的な落涙を経験するというその衝撃を、隊員らは言語化して伝え、観客はそれに共振して落涙に誘われる。作者なりの描写であるが前半思いも寄らない40年前実際にあった修羅場が再現される。
    炭と化した遺体(従って誰のものかも判らない)と対面する遺族の証言と場面から、遺族同士の励まし合う場面、娘らが帰って来る日を待って40年を過ごした(乗り切った)という主婦が、飲酒依存となった姿も。だがドラマは収束して行く。亡くなった娘らが母に言う「帰って来るわけないじゃん。」けど「ずっと傍に居るよ」。五組の家族は一組、また一組死者と出会い、去って行く。最後に残った鳥居の前にも、やがて息子が現われる。人生の意味への問いに直面するのは必ずしも不条理な事故の経験者に限らず、不条理が日常化している人々が今この時にも生きている。その人たちとの共鳴、あるいは連帯というものを予感させる感動を紡いだ所に脚本家森岡氏の骨を見たような。
    出演者多数であったが、場面転換に付随する衣裳の早替え(客室乗務員の制服へ、また迷彩服へ)も中々のもの。歌唱レベルも高く興醒めさせる事がなかった。

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    2025/10/12 04:04

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  • 観劇ありがとうございました。
    二度目の“STRAYDOG”公演、再び足を運んでいただけたことに心から感謝いたします。
    若い俳優たちを中心に据えた群像劇は、最初こそ混沌として見えるかもしれませんが、彼らが一つの熱を生み出す瞬間こそ、この作品の核だと思っています。
    フィクションの枠を超え、現実や記憶に触れるような舞台を目指してきました。
    鳥居みゆきさんをはじめ、異なる個性を包み込みながらひとつの物語へと溶け合う――その過程を感じ取っていただけて嬉しいです。

    「混沌の中にこそ、真実の光が宿る」

    2025/10/13 00:18

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