マクベスに告げよー森の女たちの名前を 公演情報 MyrtleArts「マクベスに告げよー森の女たちの名前を」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    五月に趣向の『パンとバラで退屈を飾って、わたしが明日も生きることを耐える。』を観劇。アフタートークのゲストがくるみざわしん氏で非常に興味深い内容。今作の予告があったので絶対観ようと決めた。その時の直感は間違っていない。凄まじい作品。観逃したら後悔じゃ済まない。大手忍さんが凄すぎて途中からもう怖くなった。人は余りに怖ろしいものを目撃すると興奮が頂点を突き抜けて無感覚になり背中の方から冷えてくる。想像力の範疇を超えてきた演技。自分のキャパシティではとても受け止め切れない。昨年末の桟敷童子、『荒野に咲け』と地続きのキャラ。『荒野に咲け』に戦慄を受けた人は必見。

    百年続く由緒ある精神病院、神滝病院。七年前、とある事件で病院を辞めた看護師(岩戸秀年氏)、復職する前夜、夢の中で探し物をしている。三枚の扉の向こう側から格子窓越しにそれを見ている三人の魔女(小林美江さん、三浦伸子〈しんこ〉さん、滝沢花野さん)。岩戸秀年氏が探していたのは学生時代に心に刻まれた一冊の本、「患者を尊敬しなさい。」と書かれている。次に迷い込んで来たのは院長(原口健太郎氏)。子供の頃に遊んでくれた三人の「分裂のお姉さん」を探している。拍子木がカンと音を立て緊迫感を煽る。「きれいはきたない、きたないはきれい。」

    神滝病院六号病棟は他の病院が収容に困る患者を引き受ける社会の暗部。「死亡退院」として死なないと外には出られない。精神病院での患者虐待は知的障害者施設での虐待と同一で患者を人間とみなしていないことが根本にある。
    そこに十代から百以上の精神病院を転々として来た三十代の患者、坂上(大手忍さん)が現れる。

    『マクベス』の三人の魔女の台詞を上手く使って、この世の地獄を邁進する現代のマクベスを描写する。登場人物の誰のどの立場も人として充分理解出来る。いつだって現実と理想は相容れないものだろう。「逆さま逆さま」。

    これ、映画化した方がいい。
    必見。(全日程、前売りで完売だそうだ)。

    ネタバレBOX

    原口健太郎氏は田崎潤っぽくもある。大熱演。
    事務長の川口龍氏は松井章奎、堀口恭司系の格闘家顔。
    小林美江さんの葛藤。三浦伸子さんの重ねた経験。滝沢花野さんの人生経験の薄い正義感。
    岩戸秀年氏の裁判では裁かれなかった自分の罪。自分を裁くのは自分自身だ。

    大手忍さんのキャラは黒沢清の『CURE』の萩原聖人、『羊たちの沈黙』のレクター博士。診察をしている筈がいつのまにかされていく。病んでいるのは自分の方なのか?
    「逆さま逆さま」
    「ババンババンバンバン」
    「ドリフ診察」
    「この世は何もかも逆さまの逆さま」
    パワーワード連発。

    アンビバレンツ(両価性)=相反する感情を同時に抱くこと。実は人間は自分の感じていることの真逆の感情も無意識で同時に抱いている。その存在を無視し続けるとどんどん巨大化していつか抑えきれなくなり爆発する。誰もが持つものだが統御しきれなくなると精神病と見做される。岸田秀は精神分裂病は外的自己と内的自己の分裂だと説いた。外的自己(現実に適応する為に仕方なく妥協している社会的な自分)と内的自己(本当の自分自身だと認識している妄想の自分)が乖離し続けると壊れてしまうことが原因だと。その治療には「あるがまま」を受け入れること。

    三月にやった名取事務所の『淵に沈む』と作品の主題は同じ。人間をモノとしてしか認識出来なくなった病人が、人間一人ひとりが人生というオリジナルの物語を背負った稀有な存在なのだと思い至る話。人間讃歌である。

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    2025/10/10 15:11

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