公演情報
江戸糸あやつり人形 結城座「「タクボク~雲は旅のミチヅレ~」」の観てきた!クチコミとコメント
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2025/09/19 (金) 14:00
前にチラシを貰ってあらすじを読んだ感じだと、詩的に石川啄木の短い人生を描きながらも、どこか自伝的な、伝統的糸操り人形を使った人形劇で、割と真面目で、新劇的演出方法の堅い人形劇だと思って観に行った。
そうしたら、実際には良い意味で裏切られた。劇は、歌人·小説家の石川啄木の自伝的小説『雲は天才である』をモチーフとしながらも、結城座を模したような糸操り人形一座が都会の只中で大穴に落ちたところから始まり、その不条理さ、不思議さもさることながら、その大穴で糸操り人形一座の座員の1人が啄木の日記を見つけ、その後、日記の話がメインとなって劇が展開していく。
しかし、劇の中盤で、日記を読んでいた一座の閉まっていた人形がいつの間にか消えて、日記の中に書かれた石川啄木の本名石川一(はじめ)が小学校の代用教員をして、学校の行事としての課外授業と称して森の中に生徒たちを連れて行くと言うことと、人形が消えたことが森を通して時空が歪み、リンクしていくといった、二重、三重構造の展開が、少し複雑で、急な展開だけれども、面白いと感じた。
また、劇中の登場人物たちが個性豊かで、特に狂言回しで調子の良い猿やウナギ校長、ススケランプ教頭、バレイショ夫人、探偵独眼竜といった登場人形たちは、見た目も含めて印象に残った。
思っていたより、乾いた、皮肉の聞いた笑いも多くあり、あんまり硬くならずに、気軽に肩の力を抜いて、大いに笑えて、楽しむことができた。
今回の人形劇は、石川啄木の小学校代用教員時代の生徒たちとの交流や、ウナギ校長、バレイショ夫人、ススケランプ教頭たちを上手く言葉で言い包めるなどコミカルな場面も多かったが、全体としてはどこか宮沢賢治の『風の又三郎』に通じるような、少し不思議で、叙情的で、詩的、優しくも、劇が終わる頃には狐につままれたような気持ちになるといったような劇で、感慨深くなった。
最近のスピード社会、流行社会とは真反対などこかのどかで、不思議で、時間の流れもどこかゆっくりとしていて、知らぬ間に現実を忘れているような劇で、これこそ人間のなせる技かもしれない、AIには到底到達しづらい次元ではなかろうかと感じた。