受付/六月の電話 公演情報 演劇ユニット茶話会「受付/六月の電話」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    「受付」「六月の電話」2本を上演、「受付」は☆4つ、「六月の電話」は☆5つ。総合評価華4つ☆(追記9.21)

    ネタバレBOX

    「受付」
     別役さんが今作を書いたのは当パンによれば1980年だが、演出家は余り作家の今作執筆当時の心理状態をイメージすることができなかかったのではないか? との疑念が残った。実際今作で別役さんが何を描きたかったのか? については様々な解釈が存在し得るし何も私如きが感じることが正しい等という気はさらさら無い。然し今回今作をどう解釈するのか? という点で結論を出していないような気がしたのも確かなことなのである。表層だけ観れば精神科を受診しようと訪れた45歳の既婚子供4人の会計事務所勤務のサラリーマンが、受付の女性に、募金、アイバンク登録、献体等々を押し付けられてゆく不条理な喜劇と取ることができよう。然し、別役氏の意図はそんなに単純なものだったのだろうか? 受付嬢の台詞の大多数は、このビル内に存在すると彼女が主張する37もの各種団体の受付との電話内容なのだが、この内容をからかいたかったのか? だとすれば何故? 何故このような形で? 等様々な疑問が生じる。
     また、何年もの間、机上に置く筆立ての位置に迷い、他の事に手を付けられない程の状態を続けている彼女の心理状態は何を反映しているのか? といった疑問である。下らないこと、余りに些末的で解決する気なら自分で少し細工して机の引き出しに入れるとかどうしても机上と関連付けておきたいのであれば筆立て自体を嵌め込めるような容器を作りその容器が取付金具で机に取り付けられ自由に動かすことが出来るようにすれば済むこと。或いは小型で平たい筆記具用の皿型の物を用意し、邪魔にならない場所に置けばよいだけの話で何年もバカバカしい些末事項に拘る等愚の骨頂である。
     以上のようなことを茶化したというのであればそれが何故か? を考えて演出をしたとは考えにくい。また受付嬢役の女優さんが台詞をやたら噛んだのも残念。
    「六月の電話」1995年作(当パンより)
     今作で重要なアイテムは板奥の衣文掛けに掛けられたウェディングドレス。此処に現在住む女が20年前の今日結婚式場の控えで着ていたものである。して当日新郎は式場に現れなかった。以来20年、彼女は誰もいない空間に「あなた」と呼びかけ続けている。時折掛かって来る電話に応対することが彼女の現在の仕事であり、寄る辺なく何のあても無い彼女は自分で決めた日課をその時刻が訪れると果たすことで時間をうっちゃっている。今日もそのような日をいつも通り過ごしていた彼女の下をアリバイを証明することが自分の仕事だと称する男が訊ねて来た。依頼人も不明、非依頼者の個人情報も不明、唯彼が仕事を果たす為の最低限の情報とアリバイを客観的に示すことができるよう、カメラや当日の新聞というアイテムを引っ提げて。必要最小限の情報とは、アリバイ照明が必要となると思われる者の住所であった。住所は確かに彼女の実際住んでいるこの場所であり、危害を加えるそぶりもなければ、非紳士的態度でもなく、唯水が飲みたい、とか彼女の残した食べ物を食べても良いか? 等の質問をすること位で害は一切ない。但し依頼者の指定した時刻迄は被依頼者のアリバイを証明する為、被依頼者と一緒の場に居て被依頼者がずっとアリバイ証言者に証言して貰える状態であったことを保証しなければならない。これが、この話の要点であり、話が進むに連れて依頼者の目途と何故このような依頼が行われたか、その背景が明らかになってくる。
     その背景とは1970年代初頭には既に瓦解していた所謂世界の展望を形成する視座が、時代の反進歩勢力によって益々混迷の度合いを増し遂には消滅するに至る過程で起こった進歩派同士の内ゲバであった。進歩派の理論的指導者の多くが実際の社会経験に乏しい若者達であり旧支配体制を維持する勢力に対する有効で決定的な闘争指針を打ち立てきれず、而も今迄主張して来た論理との整合性を保つ為に更に論理を先鋭化させる以外の道を持たなかったが故の近親者同士のぶつかり合いが起こっていた。この辺りの指導部のメンタリティーや焦燥の結果を垣間見させる独特の雰囲気を持った作品である。

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    2025/09/20 15:51

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