「タクボク~雲は旅のミチヅレ~」 公演情報 江戸糸あやつり人形 結城座「「タクボク~雲は旅のミチヅレ~」」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    石川啄木の未完の小説、『雲は天才である』をモチーフにおきあんご氏作、加藤直氏演出の『笑うタクボク〜雲は天才である〜』を2012年に上演。2020年、加藤直氏が書き下ろして『明日またタクボク〜雲と劇場〜』を。そして更に今回、加藤直氏が書き足し新作として上演。

    結城座の面々が町から町へと劇場に向かって旅をしている。都会の雑踏、袋小路に嵌り、踵を返そうとしたがよく見ると行き止まりには大きな穴が空いていた。思わずその穴を降りてみる。そこは古い廃校の教室のよう。落ちている一冊のノート。石川一(石川啄木の本名)の日記のようだ。母校岩手の尋常高等小学校(現在の小中一貫校)の代用教員を20歳から一年間務めた頃。何故か青空が地下に落ちている。

    可動式のスクリーンに投映される映像を見事に活用。下手花道で生演奏は紫竹芳之氏。尺八、能管、篠笛···。茸の傘のような楽器、ハンドパンの音色が強烈。

    ハジメ先生(結城孫三郎氏)が生徒達(安藤光さん)に自作の歌を歌わせたことで揉めている。擁護するマドンナ先生(湯本アキさん)。叱責する校長(小貫泰明氏)、その妻(大浦恵実さん)、教頭(結城育子さん)。

    結城座の人形遣いの面々は声優のような声色が武器。人形のスムーズな動きと声とで観客を作品内にいざなっていく。人形遣いの世界と人形の世界が多重構造に連なり、この謎めいた劇空間を観客は解き明かしていかないといけない。

    大浦恵実さんが戦後日本女優の佇まいで印象的。
    超満員に詰め掛けた観客、ギチギチの客席。熱気が凄い。作品はとても面白い。
    風に吹かれた雲のように次々に形を変えては飄々と時代を越えてゆく旗揚げ390周年を迎えた劇団。
    是非観に行って頂きたい。

    ネタバレBOX

    浄瑠璃『伊達娘恋緋鹿子(だてむすめこいのひがのこ)』の「櫓のお七」の前半を両川船遊氏が操る場面に大拍手が巻き起こる。

    地下にあったのは石川一の日記ではなく、台本にするべき。どんな作品か演ってみよう、と学校のシーンに繋げた方がスムーズ。

    結城孫三郎氏演ずるボクは人形を遣っていないと自己同一性が保てない。猿の人形に自分を託し、八百屋お七の人形をかどわかす。その上で敢えて探偵独眼竜(両川船遊氏)にお七捜索の依頼。

    深い森に迷い込むハジメ先生達一行とお七人形を捜す結城座の面々。甘い匂いに誘われて夢見心地になってしまうが惑わされてはいけない。深い森の迷宮で独眼竜は犯人を突き止める。この森の描写は人間の無意識のようだ。意識に引っ張られ過ぎても無意識に引っ張られ過ぎてもいけない。

    「人生は長い暗いトンネルだ、処々に都会という骸骨の林があるっきり。それにまぎれ込んで出路を忘れちゃいけないぞ。そして、脚の下にはヒタヒタと、永劫の悲痛が流れている、恐らく人生の始めよりも以前から流れているんだな。それに行く先を阻まれたからといって、そのまま帰って来ては駄目だ、暗い穴が一層暗くなるばかりだ。死か然らずんば前進、唯この二つのほかに路が無い。」
    (『雲は天才である』より)。

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    2025/09/19 15:24

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