玄海灘 公演情報 劇団劇作家「玄海灘」の観たい!クチコミとコメント

  • 期待度♪♪♪♪♪

    個人的に年末の一押し舞台。
    昨年の第Q藝術でのリーディングは圧巻であった。台本を離した演劇上演では一体どう見えてくるのか・・期待しかない(勿論不安はいつもあるが)。

    本作は植民地下の朝鮮を舞台にした群像劇だ。非対称な関係が常態化した社会の本質的構造を暴き出すドラマであるが、何が凄いかと言って演者の熱量が凄かった。

    総督府と昵懇の仲にある両班(豪族)一家の息子が左傾化する。植民地支配を「良しとしない」反乱を画策する勢力(共産主義革命運動ではない)。ニヒリストの彼が次第にこれに関わって行く事になる。
    また日本留学から帰国した青年を追って、日本人女性がやってくる。何故黙って故国へ帰ってしまったのかを相手から聞き出すまでは一歩も引かない、と。彼女を迎え入れた食堂は組織活動の拠点でもあり、人の行き交う地点でもある。
    活動は常に死又は拷問と隣り合わせである。女性が追って来たその青年はしかし、朝鮮の地で体制に与して身を立てる道を選ぶ(この男の動線は意味深である)。
    場面変って総督府では、警察組織である役職にまで上った朝鮮人男性が、更なる立身出世のために同胞を売るが、他国の支配下で「夢を見る」事の無慈悲な限界にぶち当たる。
    状況の緊迫感の中、家族の無理解や裏切り、差別、その根底にある「他国の支配」という現実が、恋愛も交えて描き出される。
    不条理な現実に、弱者側は声を上げる。歴史は動かせないにも関わらず、頑張れと前のめりになっている自分がいた。そう言わずに居れない存在として立つ役者たち。彼らは出番でない間は台本の文字を追っているが、単に追っているのではなく、理想を抱き大きな力に抗おうとした人間たち、敗れ去った者たちの声たちを届ける使命を帯びたこの戯曲に、心底抉られ、鼓舞されている(それが顔に出ていて分かる)。観客と同じ地面でドラマを味わい、見ているのである。
    最後に全員で歌われたペンノレは、歴史に埋もれた者たちへの鎮魂の歌、そして魂の叫びである。
    動かせない歴史の時間に縛られたドラマが、何故これほどに胸ぐらを揺さぶるのか・・・それは、彼らのとっての「今」は私たちの「今」と本質的には何ら変らないからである。
    さてリーディングは具象による縛りを解かれて想像力に委ねる部分が大きい。都合よく補ってドラマ世界を完結させる。
    本作が演劇舞台となった時にどう処理するのかが未知数な場面もあり、俳優が「役らしさ」を体現できるのかも不明。従って実は「あの感動」にまでは到達できないだろうという読みをしてしまっているのだが・・まあ楽しもうではないの。
    と前向きに心待ちにする事にする。

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    2025/09/18 23:28

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