セピア色の乙女たち 公演情報 藍星良Produce「セピア色の乙女たち」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    面白い。この時期、特に今年は戦後80年ということもあり、反戦劇が多く上演されている。本作も 青春期を太平洋戦争と共に過ごした乙女たちを描いている。
    少しネタバレするが、それを劇中劇というスタイル、しかも昭和34年生まれの女性 千里が、その母 里子(昭和元年生まれ)から聞いた話を上演台本とする。さらにそれが 本作「セピア色の乙女たち」を思わせるような劇作。

    これからは、残念なことだが、戦時中のリアル体験を語る者が少なくなり、記憶も暈けてくる。(太平洋)戦争体験のない者による伝聞が多くなっていくだろう。当日パンフに脚本/演出の藍星良さんが「いずれ私たちがいなくなり、これからの世代になった時、いったい何を伝えられるでしょうか」と記しており、演劇という「表現の自由」の中で、戦争の愚かさをどう語り継ぐのか そんな模索したような好公演。

    学び 恋をする、そんな当たり前の青春期を 等身大の役者(総じて若い)が生き活きと演じている。それを時代ごと---戦時中、高度成長期(千里が子供の頃)、そして現在(令和)の世相を垣間見せながら、セピア色の時代へ思いを馳せている。公演は メタ構造にすることで、過度な没入感ではなく、今ある世界の尊さを考えさせる上手さ。
    (上演時間1時間50分 休憩なし)【桜組】 

    ネタバレBOX

    舞台美術は 非対称だが、何となくバランスするような安心感がある和室作り。中央に小さな階段を設え、上手は欄間の下に仕切り窓とベンチ、下手は障子戸、丸テーブルに椅子。上演前にはテーブルの上に写真たて。また「故郷(ふるさと)」の曲が流れている。

    物語は、戦時中の話を上演するため、出演者 里花の母 千里がその母 里子(つまり里花の祖母)から聞いた話を基に台本を書き、という劇中劇仕立て。それが本公演と重なるような劇作。千里が子供の頃には、池袋駅東口辺りに まだ傷痍軍人がいて戦争の痛ましさを見た という記憶がある。劇中劇の内容は、里子が熊本の女学校を卒業して 東京 お茶の水にある明治大学へ入学したところから始まる。そこで知り合ったミサ子や勝江と友情を育み、通学電車で見かけた予科練生との交感(淡い恋心)など、今でいうアオハルが微笑ましい。そして 市井で慎ましく暮らしている人々、そんな日常を淡々と描く。しかし、だんだんと戦争が激化し東京への空襲も始まった。生活も学校ではなく、被服廠へ通うことになる。

    戦争体験者が少なくなり、戦後世代が背負うものが問われているような気がする。物語の結末は知らなくても、この世界線の行方は すでに知っている。どのようにして今日に繋がっていくのか。そして今、世界のどこかの国・地域で戦争や紛争が起きている。グローバル化した社会において、我々は何らかの影響を受けている。けっして対岸の火事として傍観しているわけにはいかない。

    演劇という表現を通して、戦争という最悪の不条理を描くことの大切さ。本作は、戦後世代が語り継げるような劇作上の工夫が好い。また脚本だけではなく、舞台として観(魅)せるための 照明や音響・音楽も効果的であり印象付けなど演出にも 力 を入れている。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2025/08/09 13:24

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