微笑の壁 公演情報 城山羊の会「微笑の壁」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    日常の中で口を開けている暗闇
    うまい役者たちが、とにかくいい「間」「タイミング」で渡り合う中に生まれるリズムと笑いがとてもいい。

    ワン・シチュエーションの中、シリアスな進行が笑いを誘うコメディと言ってもいいかもしれない…のだが…。

    ネタバレBOX

    川嶋と律子は、川嶋のマンションで深い関係になろうとしているというオープニングで始まる。

    川嶋のマンションに、川嶋と律子の結婚祝いのために、仕事仲間や部下などが集まってくる。
    川嶋はそれぞれを紹介し、集まった客は祝いの品を見せる。
    シャンパンで乾杯をしている中、律子と結婚したはずの川嶋の「妻・ミドリ」が帰宅する。
    あまりの事態に凍り付く客。
    そして…。

    とにかく、何がどうなっているのか、一体なぜこんなことが起こったのか、そして、この事態はどうなっていくのか、ということを駆動輪にして物語は進行する。

    新たにマンションにやってくる人たちが、また、恐ろしくいいタイミングでやってきて、物語をあらぬ方向へ振り回すのだ。

    シリアスであればあるほど面白くなり、まさに、シチュエーション・コメディと言ってもいいだろう。
    しかし、コメディと呼んでいいのは、終盤までのことである。

    なんとなく違和感が生まれてくるのだ。

    それは、律子や妻のミドリ、そして、川嶋自身までもが、マンションのテラスから飛び降りようとすることや、まるでその伏線となっているように、川嶋と仕事で関係のあった人が次々と自殺しているという事実などの、不穏な空気が物語の底辺に流れていることを観客が知っていることもある。

    さらに、妻がマンションに帰ってきてからの展開として、明らかに夫である川嶋が身勝手で悪い、としか見えなかったのだが、さらに展開するごとに、ひとつの疑念が頭を横切る。
    それは、律子への違和感である。
    つまり、冒頭から観客も感じていたであろう、律子のあまりにもエキセントリックな様子である。冒頭に行われる、律子のあけすけな欲望の場面では笑っていたが、どう考えてもその行動はどこかおかしい。
    途中の展開でも、律子のちよっとしたエキセントリックさが顔を出す。異常とは言えないほどの違和感のようなものだ。

    それは、彼女を好きになった岩谷や、前に付き合っていた岡部のことが明らかになったときに、さらに露呈してくる。
    岩谷も岡部も、それぞれ家庭があり、岡部においては、(彼女のせいもあり)すでに壊れてしまっているのだ。
    それは、このような状況に陥った川嶋も同じで、妻がある身なのだ。

    つまり、律子は、ひょっとしたら、彼らを狂わす何かを持っていたのではないか、と思うのだ。
    冒頭で彼女が見せた奇妙な行動(たぶん他の男性にも同様なことを行っていたのだろう)は、彼らの思考を停止させ、さらに彼女のペースに巻き込み、結果、彼女から抜け出せなくなるというものではないのか。

    だからこそ、川嶋は「なんでこうなったのかが、わからない」のであり、まず最初に、自分自身のこの行動は、若年性痴呆症によるものではないのか、などと疑ってしまうのだ。つまり、この台詞には納得がいくということなのだ。
    してがって、川嶋は、単なる言い訳をずっとしていたのではないのだ。

    だって、どう考えても、別れてもいない妻(しかも別れるつもりもないし、嫌いになったわけでもない)と一緒に住んでいるマンションに律子を呼び、結婚する、なんて言うことはあり得ないのだから。
    そうすると、川嶋の様子が、まるで魂を抜かれてしまっているようだったな、とも思えてくる。

    これは非常に恐ろしい。

    律子は(たぶん)自分の行動に無自覚であり、また、周囲の誰もそれに気づいていない。
    気づいたときにはすでに遅い。

    ラストに至って、川嶋は、今も好きだという妻に去られ、どうやら何かに気づいたようだ。律子の「銀杏の落ち葉を踏みしめながら一緒に歩きたい」という言葉に対して、川嶋は、まったく気のない返事をするだけで、視線もうつろだ。愛する2人が残って、めでたし、めでたし、ではない。

    終盤の金子のモノローグで「彼女が死んだあと」という台詞があるのだが、たぷん、ラストに見せた律子に対する川嶋の対応に、律子は何かを察して自ら命を絶ったのではないだろうか。
    ただ、そうストーリー読むにしては、ラストの彼女には足りないものがあるように感じてしまった。
    「死んだ」という言葉だけがそこに取り残されてしまったようだった。
    その処理が残念ではある。

    とにかく全員がうまい。全員がくっきりと印象に残った。
    川嶋を演じた吹越満さんの魂を抜かれてしまったような演技(特に後半)がよかった。また、おじさんを演じた三浦俊輔さんの、ずるいと言ってしまうほどの設定と演技と台詞(特に英語)は笑ったが、ラストの展開からの「音楽が聞こえない」という台詞が凄いと感じた。そして、とにかく「間」が素晴らしい。
    岡部(岡部たかしさん)と岩谷(岩谷健司さん)の、いかにもいそうな人たちの言いそうな台詞回しと雰囲気もよかったし、ミドリを演じた石橋けいさんの感情の振り幅、ゆう子を演じた山本裕子さんの腹に何かを抱えている様子もよかったのだ。また、金子を演じた金子岳憲さんの、おじさんとの絡み(振り回される)のうまさには笑った。

    細かい設定や伏線の入れ方もうまいなぁと思った。

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    2010/10/27 07:50

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