公演情報
劇団道学先生「水星とレトログラード」の観てきた!クチコミとコメント
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2025/08/02 (土) 14:00
座席1階
劇団道学先生が、保坂萌という気鋭の劇作家の作品を選んだ。主宰の青山勝の目は確かだ。きわめて緻密に組み立てられた戯曲であり、母親の介護問題や配偶者に先立たれた女性の生き方、そして微妙な親子・兄弟関係という社会性をまぶした秀逸な作品。ラップを出演者全員に歌わせるなどの演出、昭和の居間・台所を中心に据えて両サイドから階段で登る踊り場のようなスペースを設けた舞台美術もいい。そして何よりも、道学先生を支える俳優・かんのひとみの演技が実に素晴らしい。涙あり、笑いあり。今回の道学先生の舞台も見逃せない。見ないと損するかも。
タイトルのレトログラードとは、腕時計などで使われている針の反復運動を指す。主人公の祖母(かんのひとみ)の言動に、「ついに認知症になってしまった」と思い込む息子や娘たち。しかし、祖母が言うにはレトログラードのようにタイムリープをしている、つまり水曜日を起点として1週間を何度も繰り返しているという。舞台は、亡き夫の一周忌を控えた1週間の設定で、本当にタイムリープしているのか、直前のことを忘れてしまっている認知症ではないのか、という思いをひきずって最後に驚天動地の答え合わせがなされる。
祖母の息子は妻に食わせてもらっているぐうたらぶりで、一人娘にも愛想をつかされ離婚を突き付けられている。祖母の娘は共働きで、認知症の疑いが出た母の面倒を押し付けられるのではと予防線を張っている。そうした家族の問題から「跳躍」したような部分で祖母のタイムリープが続いている。なぜ、そうなっているのか。誰かが仕組んでいるのか。こうしたなぞ解きのなかで、秀逸だったのはこの家などに営業にきている「ヤクルトおばさん」の存在だ。笑いを誘うせりふとやり取りを満載した、舞台から目を離せない会話劇が進行する。
道学先生は家族の悲喜こもごもを描いたら右に出るものはいない(と思われる)中島淳彦作品をやるために結成された劇団だ。今回は中島作品ではないが、タイムリープという斬新な切り口で家族の群像劇を構成した力作だ。道学先生は中島作品だけではないぞ、とファンの一人として肝に銘じたい。