人間のあくた 公演情報 吉祥寺GORILLA「人間のあくた」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    表層的には、合法と非合法地域という差別/被差別を描いた物語で、人間の生き辛さが浮き彫りになる。非合法地域は既成事実として存在するが、そこに居る人々は居ないに等しい。その意味するところが物語の肝。

    当日パンフに「本作は、架空の国、その中にある鉄塔が立った街とラショウモンと呼ばれる特殊な地域の話」とある。塔は、セントラルタワーと呼ばれ 平和条約を記念して建てられた。差別の先にある「戦争」や「人権」という大きな問題にも言及するが、舞台の中で伝えたいことが描けたのだろうか? ラストの情景は、その間にあった出来事を観客の想像力に委ねたように思うが…。

    舞台技術の音響や照明等は、衝撃と印象付けという意味では効果的で巧い。ラショウモンの外では、騒音や雑踏といった日常風景、照明は正面の格子窓や下手のガラス戸の照明色の諧調によって 微妙な時間帯を表現している。細かな演出だけに丁寧な制作といった印象だ。
    (上演時間1時間50分 休憩なし) 

    ネタバレBOX

    舞台美術は薄汚れた街の一角。上手に高い段差、奥はブロック壁と波トタンの塀。所々にパイプ管が付いている。正面 上には格子窓があり、場景に応じて窓奥の照明色が変化する。中央に階段と電柱、何故か拡声器が取り付けられている。下手は低い段差にホワイトボード、その上には横長のガラス窓。全体的に吹き溜まりといった印象で、非合法地帯といった雰囲気が漂っている。

    ラショウモン、日本でいえば部落問題と関連付けてしまう。この架空の街では歴史的なことは語られず、既にその地域はあったという前提で描かれている。ラショウモン以外の人間は(マイ)ナンバーが付与され、それが身分証になっている。主人公 アクタ(28歳)は、偽造ナンバーを用い 人材派遣会社 トロッコに勤めている。或る日、カンザキという男が、経営アドバイザーとして来るようになってから、周辺が きな臭くなってくる。

    この国は 15年ほど前まで戦争をしており、今は他の地で戦争が起きている。トロッコは、ボランティア/後方支援といった名目で戦場へ人を派遣する。戦場であるから、当然死傷者は出るが、派遣されるのは、戸籍を持たないラショウモンの人間。そこには「人権」はない、いや もともと人間扱いされていない。カンザキもラショウモン出身者、内部事情には詳しい。差別される痛み苦しみは知っているはずだが、それを暴力的な思考で破壊しようとする。ラショウモンの内と外、それぞれが相互干渉を嫌うような描き方だが、国はラショウモンの存在そのものを認めているのか?

    物語の根底には紛争/戦争、そして差別/被差別といった不条理が横たわる。そして目先の利益や暮らしを優先するあまり、脱法行為へ といった分かり易い展開。舞台としては迫力ある銃声音や火事現場の照明などリアル。演出は好かったが、物語としては もう少しラストシーン(劇団としての訴えたいこと、主張なり)を描き込んでほしかった。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2025/06/28 15:40

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