おかえりなさせませんなさい 公演情報 コトリ会議「おかえりなさせませんなさい」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    失われる記憶、失われる場所

    ネタバレBOX

    コトリ会議『おかえりなさせませんなさい』は、伊丹アイホールでの初演時にも拝見していて、今回の再演では、作品そのものの強度はもちろん、受け取る自分の立ち位置が変化していることにも気づかされました。

    初演時は、アイホールという空間の記憶と切実さが作品にあるような、まもなく閉館を迎える劇場で、「帰ってくる場所」が失われていくこと、家族がばらばらになり、ツバメが巣を離れ、二度と戻れないかもしれないという感覚。それは、これまで公演を重ねてきた劇場、これまで観劇してきた場が無くなっていくことへの切なさと、静かに重なっていたように思います。

    再演では、台詞のテンポがやや速く感じられましたが、それは僕が伊丹に置いてかれていたのかもしれず、照明は相変わらず丁寧で、場面を象徴的に表現しながら、記憶と現実を行き来するような舞台世界に奥行きを与えていました。

    白石礼を演じた原竹志さんも印象的でした。作品の理屈を語る人物でありながら、そこに生きている一人の人間としての寂しさや孤立が滲み出ていたように思います。微細な間の取り方に、誠実な俳優の姿勢が感じられました。

    いけないと思いながらも初演と比較、混在する評になってしまう。それは本作が、あまり縁のなかった劇場と僕との数少ない思い出そのものだからだと思います。この作品について語る時、あの劇場で観たことを語るのです。

    失われる記憶、失われる場所。それらが喫茶店という小さな場所に持ち込まれたとき、僕たちはある種の“日常”としてそれをどこまで引き受けられるのか。終演後にその空間を後にするとき、残っていたのは、滑稽さでも絶望でもなく、ほんの少しの寂しさと、やわらかな余韻でした。

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    2025/06/23 20:21

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