徒然なるままに…  NOT TO BE, OR NOT TO BE… 公演情報 SPIRAL MOON「徒然なるままに… NOT TO BE, OR NOT TO BE…」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    今年は戦後80年、戦争を題材にした公演が多く上演されると思うが、本作もその1つ。硬軟ある描き という言い方に語弊があるかも知れないが、戦争ものは硬質で骨太という先入観がある。しかし 本作は、敢えて遊び心を挿入し緩い場面を描く。その隙にこそ、観客が感じ 考える といった幅広さと奥深さを感じさせる。あまり感情移入しないほうだが、久しぶりに泣けた。

    戦争(反戦)ものは、直接 戦禍等の悲惨な場面を描く公演が多かった。いわゆる硬質で骨太と呼ばれる描き方、それはそれで観応えがあった。しかし劇団(主催者)の描きたいこと 伝えたいことが全て反映され、その延長線上に自分の感情が乗っかるような感覚だ。そこには、自分で考えるという隙が見いだせない。その意味で、本作は緩いが強かといった印象。さらに演出の妙、特にラストシーンは秀逸だ。

    チャップリンに「人生はクローズアップで見れば悲劇だが、ロングショットで見れば喜劇だ」という言葉がある。「つらかったことも、後から思い出してみれば笑い話」といった解釈らしいが、このクローズアップとロングショットを「自分」と「他人」に置き換えたらどうなるか。他人事と思っていたことが、送り屋たちの中から一人だけ、特攻隊員となるよう指令が下る。我が身に降り掛かった災難が滑稽に描かれるのか と思えば、さらに捻りを…。
    (上演時間1時間35分 休憩なし)【月組】

    ネタバレBOX

    舞台美術は兵舎内、後ろの壁際に収納箱がいくつか並んでいるだけの、ほぼ素舞台。

    物語は、送り屋として特攻隊員を戦場(特攻)へ行かせるための芝居稽古から始まる。稽古中は緊張感があるが、日常の光景に戻れば和気藹々とした雰囲気になる。会話も軽妙で、それだけ見れば戦時中とは思えない。上演前には、「蘇州夜曲」「若鷲の歌」等、戦前戦中の曲が流れ時代背景を表している。

    送り屋の中から1人だけ特攻隊員を選ぶことに…今まで他人事と思っていたことが、我が身に降り掛かってきた不幸を嘆く と思ったら全員が志願する。格好良さや特攻隊員の特別待遇が目当てのような。しかし内心は 穏やかではない。それは送り屋の仲間も同じ気持ち。端から見れば懊悩して滑稽な姿を晒すところだが、戦時中の使命感 そして送り屋として 今迄の活動が枷となって本心を表せない。

    在り来たりな 戦意高揚への批判的な描き方ではなく、優しさの重要性を説く場面ー例えば 伽噺「浦島太郎」を思わせるーなど情感とユーモアをもって全編を貫く。徒然なるままに…退屈な日常どころではない。戦争ものを戦禍という悲惨な観点からではなく、人間賛歌なり尊厳という別の観点から描いた公演。人生という物語の主人公は自分であり、どんなに荷が重たくても降板できない悲劇であり喜劇。しかし戦争は、本人の意思に関係なく戦場へ、最悪の不条理であり悲劇しかないのである。

    物語は、送り屋にして特攻隊員へ志願した 秋山のシーンと彼の母・嫁のシーンを交差して描く。これによって特攻隊員本人だけではなく、銃後の女性の悲しみ、葛藤の末に送り出さざるを得ない典型的な家族の悲劇が浮き彫りになる。公演では、母・嫁と再(面)会することなく…。ラストは、後ろの壁が開き 眩い光の中へ消えていく 秋山、轟音が鳴り響く空を見上げる仲間たち。なんとも切なく悲しい情景(演出)であろうか。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2025/06/19 17:28

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