産声が聴こえない。 公演情報 “STRAYDOG”「産声が聴こえない。」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    面白い、お薦め。
    「妊娠・出産」をテーマに、女性の視点から描いた激情劇。諸々の問題や課題について、考え方や立場の違いを鮮明にすることで分り易く紡ぐ。例えば、罪はどうして生まれるのか、それは親から受け取るから だと言う。そこには不幸という負の連鎖がある。勿論 その反対は、いっぱいの愛(情)が注がれるからだと。

    TVニュース等を媒介にして時事的なことを織り込み、そのことが特別な事ではないことを伝える。そうした世相を背景に、身近な出来事として「命の重み」を実感させる上手さ。個人の問題であるが、そこに行政として どのように寄り添えるのか、そんな課題も垣間見せる。「産む・産まない」といった選択、一方「 流産」を 医学的なこととは別の意味合いで述べる台詞にグッときた。

    物語は 女性の視点であるが、妊娠に関しては 男性の考えや思いも大切。男女の交わり=妊娠は 当たり前ではない といった切実な思いも描いている。「妊娠・出産」に関して多面的・多角的に描くことで、観客1人ひとりが違った思いを巡らすことが出来る。自分の真後ろの女性は 啜り泣き、それだけ没入感が凄い。役者陣の熱演は勿論、音響・音楽そして照明の諧調が実に効果的で印象深い。緊張・緊密な展開、そして しっかり考えさせる秀作。見応え十分。
    (上演時間2時間 休憩なし) 【あかり組】

    ネタバレBOX

    舞台美術は中央に平台、その上は衣類や雑多なもので 殆どがゴミ。そこは漫画喫茶の6号室。上手奥はロッカー、客席寄りにベンチ。下手は事務机に椅子。主人公の相沢美穂は、親からネグレクトされ、今は住所不定、身分を証明するものもないデリヘル嬢。
    見所は、理屈ではなく人間 それも女性の切羽詰まった心の咆哮が、観ている人の感情を激しく揺さぶるところ。単に演劇の虚構空間ではなく、生身に痛みを感じる現実世界がそこにある。

    物語は、3人の女性の妊娠・中絶・不妊治療を通して「命の重み」を描いている。高校生 松本優花の彼氏 鈴木颯太は、美穂が寝泊まりしている漫画喫茶で働いている。優花は避妊を心掛けていたが 妊娠。それを知らされた颯太は行方を晦ます。優花の友達 市川萌子はパパ活をしていたが、友達の妊娠を通して「命の重さ」を知る。また、斎藤香織は不妊症に悩んでおり、夫 孝則とともに通院(不妊治療を)している。まだ望まぬ子と いま望んでも授からない子、それぞれの苦悩を対比するように描く。

    美穂は 客の子を身籠ったが、育てる自信も環境もない。行政(新宿区の福祉担当=孝則)に相談するが、諸々の書類や条件が求められる。妻 香織の不妊治療にかかる精神的・肉体的負担、そして経済的理由から養子縁組を考える。そして美穂の望まぬ子を…。しかし、飽くまで夫婦の子に拘る香織と孝則の間に溝が生じる。「子の存在」という 別の問題も浮かび上がらせる。産む/産まない(中絶)にしても、その判断は9週目迄、そして養子縁組を望む人たちは、順番待ちをしている等、具体的な数字を示すことによって現実感を出す。また音声で「東京都墨田区の赤ちゃんポスト」のニュースを流すなどリアル。

    物語では、中絶するのが4か月以上か未満かで、中絶胎児が一般廃棄物として他のゴミと一緒に焼却するといった違いがあること。それを高校生に教えることの是非、医師と産廃業者の迫力ある激論が凄い。また流産は、母体を心配し 胎児が自ら命を手放すといった言葉は堪えた。身近で見聞きするような内容が描かれており、共鳴出来るのではないか。人間の根源「妊娠」をテーマにした幅広く奥深い内容。一つ一つの場面に 今を生きている人達が見失ってはいけない、大切なものが凝縮されている。

    音楽は、癒すような優しい音色。照明は、白銀色のスポットライトの中で心情を激白する。「妊娠」という現実と幸福、しかし その実感を失った先は想像を絶する孤独が待ち受けているよう。居場所が無くなったら、そこを考えさせるようだ。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2025/06/13 21:00

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  • ご観劇いただき、そして丁寧に作品を受け止めてくださり、心より感謝申し上げます。
    本作の根幹である「妊娠」「出産」「命」という題材を、社会的な視点だけでなく、人間の生き方として深く捉えてくださったことに、心から御礼申し上げます。
    舞台美術や演出構成、音楽や照明にまで細やかに目を向けてくださり、その意図を感じ取っていただけたことは、創り手として大きな励みです。
    現実に生きる人々の痛みや孤独、そして希望をどう舞台で描くか――その一点に全員で向き合ってまいりました。
    この作品が、観てくださった方の心に何かを残すきっかけとなっていれば幸いです。
    温かいお言葉をありがとうございました。

    2025/10/19 23:55

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