ガマ 公演情報 劇団チョコレートケーキ「ガマ」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    鑑賞日2025/06/08 (日) 14:00

    沖縄戦と言っても教科書とニュースでしか知らない私たちをがつんと打ちのめす。
    ノーテンキな令和の日常を根底から揺るがす緊張感MAXの台詞を浴びて、
    初めて私たちは戦争を「情報」ではなく「疑似体験」する。
    こんなことが出来るのはやっぱり芝居、それもチョコレートケーキの圧倒的な力だ。

    ネタバレBOX

    全編ガマの薄暗い空間で展開する。
    敵の攻撃を逃れてこのガマに逃げ込んだ6人の、ここまでの経緯が少しずつ語られる。

    戦時下における教育の賜物のようなひめゆりの少女、
    少女に助けられた、部下を全員死なせてしまった少佐、
    助からないとはいえ負傷した教え子を置いて逃げた教師、
    そして二人の脱走兵と、
    彼らの道案内をして来た住民の老人。

    全員が死んだ人間を思い、生きている自分に負い目をもって息を殺している。
    そして死ぬチャンスを待っているように見える。
    それでいて心のどこかに生きることへの渇望が蠢いている。

    印象的だったのは、人間に価値観を植え付ける教育の力だ。
    ひめゆりの少女が、傷つき死んでいく兵隊を山ほど見ても尚、天皇陛下のために死ぬと言い、
    そうすれば沖縄県民は立派な日本人として認められるのだと言う、
    その頑なまでの訴えに”死ぬことを怖れぬ国民は使い易い”という怖ろしい目的を見る思いがした。
    純粋なだけにお国の教育を疑うことが出来ずにもがくひめゆりの少女を演じた
    清水緑さんの迫真の台詞が素晴らしかった。

    「白旗を挙げた者を攻撃はしない、捕虜を傷つけることもしない」と皆を説得するのは
    病気で妻を、3人の息子を戦争で亡くした孤独な老人知念さんだ。
    脱走兵と知りつつ騙されてやる優しさ、頑な少女の心を解きほぐす素朴で力強い言葉、
    自責の念に駆られる者には「それでも生きるのさ、命は宝だから」と諭す温かさ。
    キャストを知っているからそれと判るが、久々に拝見した大和田獏さんは
    イメージを覆す見事な老人ぶりで、柔らかさと信念の強さがあって素晴らしく魅力的。
    台詞はどれも朴訥で、声高に相手を変心させようとはしないのに、
    やさしい言葉で「それでも生きて欲しいのだ」と心を尽くす姿にボロ泣きした。

    字面で読んだり映像を見ただけの情報から、一気にあの時代のあの空間へ引きずり込まれた。
    全編ガマの中の限られた空間が舞台で薄暗く、その分集中して時空を遡ることが出来る。
    ラストで白旗を掲げた6人がガマから外へ出るシーン、その時初めて
    強いライトが全員の顔をはっきりと正面から照らす。
    恐れと、不安と、だが知念老人のことばを信じて明るい方へ向いた表情が力強かった。

    外へ出た時、どこか「戦時下体験テーマパーク」から出て来たような錯覚を覚えた。
    戦う体験ではなく、戦いたくない側の壮絶な体験だった。


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    2025/06/10 02:23

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