湿ったインテリア 公演情報 ウンゲツィーファ「湿ったインテリア」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    愛というものの歪さ、生きることのままならなさ。それでも希望を託したくなる。

    ネタバレBOX

    「子どもが親にしてくれる」というようなことはよく言われますが、親になる準備が心身ともにできていない時に親になる人はきっと多いでしょう。合計5人の大人が親であることをもがく姿は、人は誰かの子どもであることをあらためて感じさせます。誰も彼も、様々な親を持ちその影響から逃れられない。新しいひとが生まれるという時に、そのことがじめりじめりと迫ってきます。

    3世代、2家族。いずれの登場人物も価値観が異なり、なぜそういう生き方なのかの背景が見えていきます。それらが台詞によって織りなされている戯曲はとても巧みでした。
    さりげなくも多層な台詞を、俳優たちがさらに深く立体的に立ち上げていきます。タク(藤家矢麻刀)の葛藤とエゴ、チア(豊島晴香)の自分の人生を生きようとするかたくなさ、カキエ(松田弘子)の喪失との向きあえなさと向き合い方、タナコ(根本江理)の自分と他者との折り合いの付け方、ジュウタ(黒澤多生)の他者と他者とを繋ぐ佇まい。すべての登場人物が優しく、わがままで、愛おしい。
    音楽、美術、照明、音響が、横に縦にと空間を広げていて、リビングの天井を越えて、劇場の高さ4000とは思えない、ずっと宙遠くまで続いているように思えました。

    それらの総合力で、もうなにがなんだか愛というものがよけいにとらえられない宇宙のような複雑さを見せていきます。
    それでも、そのなかでたった一人だけ、言葉ではなく泣くことでしか自己主張ができないソラ。大人たちの抱える複雑さをシンプルにしてくれるような存在でしたが、ソラが自分で泣くことすらできなくなったときに、大人たちそれぞれの主張がハレーションを起こしていきます。
    終盤、どこに行きつくのかわからないこの物語に、生きていると、他人は思い通りにならないし、自分自身にだって納得がいかない。後悔はそこかしこにあるし、どうなるのかもどうしたらいいのかもわからない……よなあ、きっと、幾つになっても、と思いました。
    薄く折り重なる多層さゆえか、その場で宇宙へと放り投げられるようなインパクトやカタルシスがあるというよりも、数日たってじわじわと気配を感じさせる日常に潜む宇宙のようでした。観劇後も続くこの観劇体験が、今も心地よく胸にあります。

    「再演をする」というところから話が始まったことは当日パンフレットでも明言されています。「Corich舞台芸術まつり!」の審査とは別の話にはなりますが、受付にたどりつく前から飾られた赤ちゃん用品や、子どもが生まれたばかりの夫婦のリビングを舞台にしたこと、スピーカーを用いた赤ちゃんなどは過去公演と同じでありながら、まるで別の作品でした。登場人物や焦点を当てられている部分は異なり、前回描かれた「演劇」の話題からは離れています。これほど似ていながら、これほど違う作品なのだと、面白くもありました。作品と創り手を離した改定に、確かな技量を感じた上演でした。

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    2025/06/05 08:34

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