悲円 -pi-yen- 公演情報 ぺぺぺの会「悲円 -pi-yen-」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    新NISAをテーマに、チェーホフ『ワーニャ伯父さん』をベースにした日本のとある葡萄農家のようすを描く。会場は大田区の元工場を利用したギャラリーで、チケット代は毎週の日経平均株価の終値を反映するなど、コンセプトやさまざまな取り組みが楽しい。

    ネタバレBOX

    新NISA演劇、だそうです。投資演劇ではなく新NISA演劇。そもそも「新NISA」という制度は手軽に投資することを推奨するような制度で、果たしてそれが市民の救いになるのかは……なんだか煙にまかれているところもある制度だなぁと思っていますが、本作は……都会から離れた葡萄農家が舞台。一家の妹の元夫でいまは有名なYouTuberであり投資家の瀬戸先生(村田活彦)が、農家の売却を提案してきます。かつて瀬戸を信頼していた、農園で働く小池さん(石塚晴日)の息子の良夫ちゃん(岸本昌也)を筆頭に、あえて棒読みのような台詞の言い方や立ち姿は、空虚ながら生活の空気も残しており、会場のコンクリートの壁のように冷えた印象と、だからこそそこにある生命の消せない温度を漂わせていました。一変して激しく賑やかな『U.S.A.』のダンスシーンなど、作品としてまた演出としてもとても練られています。
    こだわり組み立てられている一方で、盛りだくさんにも感じられました。戯曲としても『ワーニャ伯父さん』の物語を反転させるくらい本作独自の世界により引き寄せてもよかったようにも思います。またアメリカを強く意識しながらも、そこにアメリカと複雑な関係を保つロシアの戯曲をベースにしたことの皮肉もより明確であっても上演の説得力に繋がったのではないかと想像しました。

    トランプ関税等の影響によって株価が大きな影響を受け、投資家たちが沸き立ったのが記憶に新しい昨今。演劇というリアルタイムの虚構が追いつくには世の中のスピードがとても速くなっています。現実との接続は難しいなか、日経平均株価を反映するチケットの値段設定はとても良く、キリの悪いチケット代を見てわくわくしました。

    会場は、大田区の元機械工場をリニューアルしたギャラリーでした。
    町工場は高度経済成長を支え、日本のなかでもアメリカ(はじめ国外)の影響を強く受けた分野です。とくに大田区には町工場が密集していましたが、時を経て激減してしまった。ある意味で、日本の経済と発展・衰退の象徴のような地域ともいえます。そのような場所であるからこそ、工場を舞台としたことを重ねられれば、より身近なこととして実感できたように思えました。
    舞台奥のシャッターから車が出入りするさまは、かつてはきっとなにげない日常だったでしょう。しかしそのなにげなさ(車の出入り=取引があるということ)こそ、繁栄の象徴のような光景だったのかもしれません。

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    2025/06/05 07:37

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