キコの色
キコは旗揚げも観た。二回目にして既に「キコの色」がはっきりとわかる。そして僕はそのキコの色が好きだ。身体が沸騰するような熱さを覚える。幻想を世界観に馴染ませる確かな説得力がある。演劇でしか味わえない力を持っている。
好きだからこそ、率直な意見を書きたい。今回は終盤完全に話を追えなくなり、途中から物語の整合性を考えることを止め、その瞬間瞬間の演技の凄みや肉体の躍動に目を向けることにした。それはそれでとても面白かったので作品に対して不満があるわけではない。
しかしオープニングから序盤の物語への引き込み方、那保さんが出てきた瞬間に文字通り凍り付く空間、その時の己の心臓の激しい脈動を思い出すと、もったいないと思ってしまった。この世界観でその後も物語がすべて繋がれば、と。十歳以上年下に言われるまでもないかもしれないけれど、強くそう思った。
それにしても「凍る瞬間」を見せつけられるのは演劇の特権だろう。舞台上はもちろん、客席までも包み込んで凍りつく。そういうシーンを書ける小栗さんの感性に限りなく尊敬の念を抱くし、共演者も観客もぶち殺してやる的な那保さんの演技に鳥肌がたつ。そして、そういう瞬間は演劇の特権であっても、そうそう観られるものではない。観に行くといいと思う。
最後に、なんかみんな書いてる制作面について。場内整備が席を詰めさせるためのアナウンスをしているだとか、開演前に客同士の下らんトラブルがあったとか、そんなのは別にお芝居の内容に結びつかないじゃないか。そのせいで「気持ちよく観られなかった」とか言うのは観客のエゴでしかない。
制作側の細かいケアがなっていないのはもちろん良くないことだ。でもお芝居が始まれば、舞台を隔てて、作り手側と観る側の対面勝負になる。「さあ始まるぞ」と心を入れ替えて真剣に向き合わなければ、作り手に失礼だと思うのだ。僕も最近作り手側に回った人間であるが、観客として劇場に足を運ぶ時はそんなこと関係ない。実際、僕はこのお芝居が始まった瞬間、それまでのことなどすっかり忘れて劇世界に引き込まれたのだから。