蝉追い 公演情報 劇団桟敷童子「蝉追い」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    面白い、お薦め。
    九州の或る旧炭鉱街を舞台にした家族の物語。誰もが避けて通れない老い、それを遠い過去の痛ましい事故とその地域の風習を絡め、情緒豊かに描いた傑作。

    昭和61年 梅雨から夏にかけての時期、梁瀬家(農園)が舞台。冒頭、老いた男女をつけてくる女3人の軽妙な会話で、一気に物語へ引き込まれる。桟敷童子らしい舞台美術、そして効果的な音響・音楽や照明の諧調は実に見事。また毎公演 驚かされるラストシーンも…。何といっても、梁瀬農園の主 梁瀬守男を演じた山本亘さんのラストシーンの演技が圧巻で、熱いものが込み上げてきた。

    さて 痛ましい事故は事実、そしてフライヤーの絵柄にある 夏みかん が重要な役割を果たしている。まさに虚実綯交ぜにした舞台で、見応え十分。ちなみに、当日パンフに次回新作公演が「一九一四大非常」とあり、公演のラストシーンに現れる装置にも「19141215」とある。この数字が意味を持ち、本作と次回作の関連をうかがわせるような気も…。
    (上演時間1時間45分 休憩なし) 

    ネタバレBOX

    舞台美術は、下手に梁瀬家 上がり框 その後方に収納棚。上手には 離れ があり板戸が閉まっている。母屋と離れの間に水路がある。周りは鬱蒼とした木々の葉が青々(季語でいえば青葉)と芽吹いている。上演前は水路の水が揺らめいている(地鏡の)ような照明。母屋の天井には「梁瀬農園」の看板がある。冒頭、雨の中 男女2人が寄り添って、家(梁瀬家)の中へ入るところから始まる。舞台と客席の間に、天井から水が流れ落ち、ちょっと驚かされる。

    昭和61年、梁瀬家のある九州の或る田舎町。昔は炭鉱町として栄えたが、今は 然したる産業もなく寂れている。梁瀬家は農園をやっていたが、今は荒れたまま。最近、この家に女が出入りしていると噂を聞きつけ、農園主の守男と彼に付き添っている謎の女、その2人をつけている女3人。謎の女は 守男の元妻 嘉代、そして3人の女はその娘達(美穂、典子、千尋)。36年前に守男と3人の娘を捨て、中村組の男と出奔した。当時、娘達はそれぞれ9歳、6歳、3歳で母の記憶が殆どない。それが今になって…。桟敷童子の3女優(板垣桃子サン、もりちえサン、大手忍サン)の演技が秀逸。そして3人に立ち向かう母 鈴木めぐみ さんも負けていない。

    守男も年老いて、最近だんだんと様子が変になってきた。一方、娘達の事情も平穏ではなく、色々な問題を抱えていることが分かる。美穂は夫と死別、典子は自分が浮気をして離婚を決意、千尋は小学校教師を辞め無職。嘉代は、農園を整備し昔のように活気あるものにしたい。中村組という土建業者の社長になっている 嘉代の罪滅ぼしのような思いであろうか。しかし守男の記憶や行動が…認知症のようだ。それでも農園のこと、特に夏みかん には思い入れがある。

    物語は、方城炭鉱の炭鉱爆発事故(1914<大正3>年)がモチーフになっている。当時、炭鉱事故は「非常」と呼称し、「大非常」は大事故を指していたという。事故でガスが充満し危険な状態であったが、ガスを中和すると信じられていた夏みかん を坑内へ投下したらしい。守男が子供の頃の痛ましい記憶、認知症になっても 夏みかんへの思いは 一入。現在は、水路に夏みかんが流れてくる。ちなみに、劇中の台詞にもあるが、一本の樹に二季の果実 夏みかんと橙がなる…子孫繁栄の縁起物と。

    記録と記憶、そして家族の絆といったことが分かり易く描かれている。同時に、その家族を温かく見守る近所の人達の人情も厚い。物語は、蝉の声や雷鳴といった音響、三味線やピアノによる音楽、そして飾り灯篭(祭りー夏神様)といった小物で情緒ある雰囲気を醸し出す。フライヤーにある「家族は老いて、傷み、壊れて、荒んでゆく」の言葉は、物語の中へ しっかり刻み込まれていた。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2025/05/28 00:03

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