おかえりなさせませんなさい 公演情報 コトリ会議「おかえりなさせませんなさい」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    冒頭、客席の頭上からツバメが渡ってくる。ツバメは同じ場所に巣をつくりつがいで子育てをすることから、「家族」の象徴として創作物に登場することが多い。また、渡り鳥なので「帰郷」や「回帰」の象徴としてもよく扱われる。

    ネタバレBOX

    舞台は、とある家族の思い出の喫茶店。母が「メモリー」と口にしながら家族の思い出を語ります。そんな家族のメモリ(記録)が刻まれた場所で交わされる会話は、人間とツバメをかけあわせた存在であるヒューマンツバメになるかどうか。ヒューマンツバメになると家族のメモリ(記憶)が消えてしまう。そんな思い出にまつわるやりとりは、家族というものは何なのかを問うと同時に、人間とは、存在とはなにかを問うてくるようです。

    人間とはメモリの蓄積なのでしょうか。愛とはメモリが無くなれば消えるのでしょうあか。──そういった問いは数々のSFで描かれていますが、コトリ会議の特徴と魅力のひとつが、劇中に何度も登場するツバメの兄妹(パペット)のやりとりにあるように思います。コトリ会議ではこれまでの作品でも、たとえばセミになった時には俳優の頭にセミのフィギュアを乗せていたことを思い出しました。
    今回の2羽のツバメは、兄妹というにはあまりに密接な繋がりを感じさせ、見た目はかわいらしくもどこか気持ちの悪さ・不安さを漂わせています。さらにヒューマンツバメは、俳優が羽を背負いくちばしをつけています。パペットや着ぐるみの登場は、不条理にコミカルが加わり、しかしシニカルで、そして不穏です。
    そんな不穏なSFで、家族の愛が描かれています。しかし愛というには不穏すぎる。メモリをめぐる家族の会話が交わされるうち、互いに愛情のような歪な愛憎を抱えており、誰もがそこを曲げきることができないことが浮き彫りになっていきます。戦時下という作品背景のなかで、そこには個の実感や愚かさや愛しさがありました。

    ツバメは、「再生」や「希望」の象徴とも言われます。
    ツバメに未来をゆだねるヒューマンツバメは、人類の希望でもあります。
    しかし、ヒューマンツバメはメモリを消し、あらたな存在として再生するのです。
    鳥のように空を飛ぶ戦闘機が破壊をおこなったすえにある再生は、誰にとっての希望なのでしょう。戦争ののち、彼らはいったいどこに帰郷するのでしょう。

    記憶、家族、アイデンティティ、戦争、いくつもの愛──様々な要素が想像力を広げてくれる一方で、すこしごちゃついた印象もありました。ヒューマンツバメひとつとっても、羽とくちばしをつけて耳がのびて高い戦闘力を持ちスタンプカードを集めているという盛りだくさんな存在です。さらに展開としても、理屈で追えば無茶に感じさせるところもあります。しかし、俳優たちのフィクションを信じさせる力に引き込まれました。戯曲が持つ何層もの深みが、コミカルな作風と手触りのある俳優らにより、独自の世界へと構築されていく。そして説得力と集中力を持続させる劇団の総合力には大きな安心感がありました。「この脚本をほかの団体が上演したらこうはならないだろう」ということは、強い魅力です。

    キビるフェス参加作品のため九州で上演されるという時に、ホームではない観客のために「近隣のおすすめスポット」や「遠方割:1,000円」を設定していたことがありがたかったです。全体として自分たちの公演の客席にいる観客の顔を想像している姿勢に、劇団としての蓄積を感じました。

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    2025/05/25 23:16

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