Touch~孤独から愛へ 公演情報 東京荒川ロータリークラブ「Touch~孤独から愛へ」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    面白い、お薦め。
    主催は東京荒川ロータリークラブ、 東京演劇集団風によって 劇団の代表作ともいえる「Touch 孤独から愛へ」を上演。この演目は、東中野にある劇団の劇場でも観たことがあり、大変感銘を受けた作品である。

    この作品は、1985年シカゴで上演され、オフブロードウェイで絶賛を浴び、1987年には映画化もされた「ORPHANS(孤児たち)」をもとに、「Touchー触れること」に焦点をあて、孤独を抱えながらも真摯に生きること、その証や相手と向き合うことの尊さが描かれている。へたをすれば 教訓臭になりそうだが、巧みに演劇として観せている。

    舞台は、アメリカ ペンシルベニア州 北フィラデルフィアで、現代の日本と時代や場所といった設定が違う。この公演はバリアフリー演劇として、障がいのある方や多くの高校生が観劇していた。物語そのものは分り易く、完成度は高いと思う。しかし、今の日本が抱える深刻な社会問題に触れるようで少し怖い。
    (上演時間2時間20分 休憩20分含む) 

    ネタバレBOX

    舞台美術は、貧しいアパートの部屋。中央に大きな直方体 その側面に2階へ上がる階段、下はクローゼット。上手に汚れた冷蔵庫や流し台。その傍にTVとソファ、テーブルがあり脱いだ服が散らばっている。下手奥に窓ガラス、客席寄りにミニテーブル。窓の奥に くさび式足場のような鉄骨。そこにCAMAC.st 等の道路案内板。実に細かく作り込んでいる。一瞬にして貧しさと荒れた暮らしぶりが分かる。
    二幕は、この光景がガラリと変わり、整理整頓されテーブルやソファに白いカバーを掛け小奇麗に。部屋の様子とともに登場人物の心境の変化を表す、そんな(演劇的)効果を観せている。

    物語は 1983年、北フィラデルフィアの貧しいアパートで暮らす、孤児な兄弟ー兄トリートと弟フィリップーの物語。トリートは不良で、自らの感情を抑えられない。フィリップはアレルギーで外出したことがない。2人は鬼ごっこのような遊びー鬼になった者がもう1人を捉まえる(Touchする)。或る日、トリートが酔って謎の紳士ハロルドを連れて帰る。ハロルドは、彼らを「デット・エンド・キッド(行き止まりの子どもたち)」と呼び、兄弟に寄り添う。フィリップは次第に心を開くが、トリートは その優しさを拒絶している。

    ハロルドは、例えを用いながら 世の中のことを分かり易く 2人に説明または諭していく。その中で、特に印象的な2つのシーン。
    第1は、ハロルドも孤児院育ちで、シカゴの孤児院で一緒だった子と新聞販売をして生計を立てていた。ある極寒の日、ハロルドは新聞を売り切らず、自分の体に巻き付けて寒さを凌いだ。しかし相方は、欲を出し全部売ってしまい 寒さで亡くなった。ハロルドは2人に向かって「ほどほどが大切だ」と諭す。
    第2は、トリートに仕事で外出をさせ、往復にはタクシーを使うように言ったが、帰りはバスを利用した。バス運転手は 会社(または行政)に雇われており、乗客数に関係なく給料が貰えるが、タクシーは自営業でその売り上げは死活問題だ。ハロルドがたびたび言う資本主義の非情の中に優しさを垣間見せる。

    フィリップは、窓を開けて外の空気を吸うことが出来ない、と思い込んでいた。トリートの思い遣りか 庇護か、または管理下に置きたかったのかも知れない。だから靴紐が解けても結べない。ハロルドが窓を開け、フィリプに地図を持たせ一緒に散歩に出かける。学ぶことー知識を広げることは、自由を手に入れ人生(心)を豊かにする。勿論、それは自分を守ることも意味している。同時に、強欲にならず周りを見ることの 大切さ優しさも教える。敢えて言えば、自分は 賢く考えることも必要だと思う。チャップリンの「必要なのは知識でなく思いやりである」や「人生に必要なのは、勇気と、想像力と、そして、少しばかりのお金だ」といった言葉を思う。
    公演のタイトル「Touchー触れること」は、色々な意味があるようだ。日本では「鬼ごっこ」遊び、第一幕ではフィリップが鬼になりトリートが逃げ切る。第二幕になるとフィリップは靴の紐を気にすることなく逃げ切る。二人の立場が逆転したよう。フィリップはトリートから自立し、アパートの部屋という籠から自由に羽ばたくよう。

    気になるのは、今のような日本の物価高では、タクシー代を節約してバスを利用したトリートを責めることは難しい。またトリートは、生活の糧を得るため恐喝をしていたが、今の日本では闇バイトといった別の手段・手口による悪事が問題になっている。アメリカと日本、そして時代背景の違いが露骨に反映される舞台(内容)だけに、物語の真意をしっかり掴むことが大切だと思う。

    「『Touch~孤独から愛へ』は、作者ライル・ケスラーが、演劇の持つ創造性を使って、リスクを負っている子どもたちや精神的な問題を抱える人々とのワークショップを通して 培ってきた経験を基に描かれた作品」とある。そして東京演劇集団風は、「作品をバリアフリー演劇として上演しており、聴覚障害者向けの手話通訳や音声案内など、あらゆる環境を共有し、すべての人が一緒に楽しめる演劇を目指す」とある。本公演でも舞台手話通訳が舞台上にいて、進行に伴い動き 劇中にも登場したりする。観て良かったと思える好公演。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2025/05/25 00:13

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