なべげん太宰まつり『逃げろセリヌンティウス』 公演情報 渡辺源四郎商店「なべげん太宰まつり『逃げろセリヌンティウス』」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    鑑賞日2025/05/06 (火) 13:00

    ”教科書的出来過ぎキャラ”オンパレードの原作よりもはるかに人間臭い作品だった。
    畑澤氏の前説で青森県と太宰治の強い絆(?)や「走れメロス」の元ネタの話などが
    語られ、とても興味深かった。いやー今さら、そうだったのか青森県と太宰治!

    ネタバレBOX

    開演前の舞台を見ると正面に十字架が掲げられ、その下に今風のギターがある。
    なんでギター?と思っていたら、全編を通して大活躍だった。

    妹の結婚準備の買い物に来た町で、「王様は自分の身内や側近を次々に殺している」と耳にして「成敗しなくちゃ」と立ち上がるメロス。
    案の定捕らえられて処刑されるという段になって「妹の結婚式のために3日間だけ時間を下さい!代わりに親友のセリヌンティウスを牢屋に入れといて!必ず戻りますから!」とトンデモ提案、いい迷惑なセリヌンティウスもまたこれを受け容れて・・・いい人過ぎるだろ!

    というおなじみの展開だが、舞台では牢獄のセリヌンティウスと悪徳王ディオニスとの
    濃密な会話がメインだ。セリヌンティウスを助けようと手を差し伸べる人々に
    「メロスは必ず戻ってくる!」と脱獄を拒否するセリヌンティウス。
    メロスの帰還を阻止しようと企むディオニス王は、セリヌンティウスを処刑し、間に合わなかったメロスが、自分を殺害してくれることを願っている。
    この屈折した心理は王が密かに詩を書いているからであり、”詩人として世に認められたい”という切なる望みから来ている。
    ”真の悲劇は、自分が殺されて初めて完成する”と信じているのだ。こじらせ詩人!

    結果、メロスは裸でゴールイン!間に合ってセリヌンティウスと抱き合って喜ぶ。
    王は二人を赦し、国民は王を称えて万歳。
    あー、なのにこの作品では意外な結末。あっけなく王は殺されてしまうのだ。

    くるくるとメロス役が入れ替わりながら怒涛の台詞が紡がれたり、
    あのギターがドンピシャのタイミングでBGMをかき鳴らし、全員が歌って踊るミュージカル調になったり、テンポ良くきゅっと引き締まった90分。
    何気に軽~く訛っているところが好き。
    段ボールに描いたイラストが素朴に巧くて出て来る度に笑ってしまう。

    刺された王が最期に満足気な微笑を浮かべるところが、最も彼の人間味を感じさせる場面だった。
    演じる三上陽永さんの繊細な表情と台詞が、屈折した王の多面性を自然に見せて素晴らしい。
    「真の正直者などいるはずがない」と言う猜疑心の塊の王が、実は最も正直だったのではないか。
    原作とは違うエンディングがその彼の孤独と苦悩を際立たせていて、教科書のハッピーエンド「走れメロス」よりもずっと深い余韻が残った。

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    2025/05/07 21:13

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