なべげん太宰まつり『逃げろセリヌンティウス』 公演情報 渡辺源四郎商店「なべげん太宰まつり『逃げろセリヌンティウス』」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    『走れメロス』でメロスの代わりに人質となったセリヌンティウス。彼が捕らえられた牢獄に何故かディオニス王が足を運ぶ。

    セリヌンティウス役、工藤良平氏はサンボマスター風味。
    ディオニス王には三上陽永氏。
    牢獄の中に現れる謎の女神(三津谷友香さん)。セリヌンティウスにしか見聞きは出来ない。
    小舘史(ひとし)氏は山田恵一や鈴木桂治、新極真の鈴木国博、ジュニオール・ドス・サントスを思わせる格闘家顔。

    小道具のイラストが大活躍。

    ネタバレBOX

    何かあんま面白くなかったかな。青森中央高校演劇部『駈込み訴え』と方法論は同じ。『走れメロス』と同時進行でもう一つの物語が進行していく。メロス抜きでどうやってこの話を組み立てるのかと思ったが前述作のユダのように複数で代わる代わる演じる仕掛け。
    主人公はディオニス王(三上陽永氏)。憎むべき暴君の圧政者が実は詩を愛しギリシア悲劇に憧れる文学青年だった。国を守る為、軍人として蹶起し国家元首となる。(カダフィ大佐のイメージ)。早くに両親を亡くし、妹を溺愛していた。だが信頼していたどいつもこいつも平気で裏切る。誰も彼もが俺を殺して権力を奪おうとする。とにかく殺戮するしかなかった。見せしめに殺す。殺す。殺す。最愛の妹でさえも川で溺死させた。民衆に恐怖と暴力を印象付け、怯えさせるしか統治の方法がなかった。本当はもうこんな権力ごっこ、真っ平御免。美しく悲劇の中で死にたかった。

    死んだ妹は川の底、水の祠で目を覚ます。大蛇になった気がしたが私は鮒になっていた。(太宰治の『魚服記』)。この場面の三津谷友香さんが印象的、今作の核。

    メロス・パートがつまらないのが沈滞の一因か。一応メロスの話に観客を引き込まないと話が盛り上がらない。セリヌンティウスの存在に意味がないのも問題。『走れメロス』のツッコミでしかない。(メロスが妹への愛から短刀を入手していた説は面白い)。

    『走れメロス』の昂揚は限界を超えて無私の精神に至り、個人を超越した大義なものを証明する行動に皆が興奮を覚える話。何だか分からないものに衝き動かされて人間は生きているのだと、理屈を超えた本能の行動。だが今作はその裏面。ディオニス王は間に合わなかったとセリヌンティウスを処刑し、激昂したメロスに己を殺させようとした。それでこそ悲劇が完遂する。
    だがセリヌンティウスの助言により、『走れメロス』のまんまの感動的大団円。(何故、それを呑んだのかは疑問。作品内では語られない)。

    エピローグ、妾にした身分の卑しい使用人(三津谷友香さん)が産んだ息子(音喜多咲子さん)によってメロスの短刀で暗殺されるディオニス王。使用人は亡き妹となって「貴方の本当の願いを叶えてあげた」と微笑む。

    佐山聡が率いた頃の第一次UWFは「シューティング」という隠語を大々的に使った。元々はプロレスの「work(仕事)」に対しての「shoot(撃つ)」、相手に真剣勝負を仕掛ける意味。(その名は後に修斗という総合格闘技団体になる)。よりプロレスを競技化していこうというムーヴメントの中、老舗のプロレス団体社長、ジャイアント馬場はインタビューでこう言う。「UWFの選手はシューティングがプロレスを超えたものだと思っているのだろう。俺はシューティングを超えたものがプロレスなんだと思うんだよ」。

    「友情」と「人間不信」、一周回ってそれを超えたものが「友情」となる。

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    2025/05/04 09:02

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