夜の道づれ 公演情報 新国立劇場「夜の道づれ」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    戦後まもなく、深夜の甲州街道を三好十郎自身であろう作家(石橋徹郎氏)が木のステッキ片手にてくてく歩いている。終電を逃し金もない、仕方なしに歩いて家まで。チャップリンのドタ靴歩きのようにその場でタップを踏むように。風貌は野村秋介っぽい。これを2時間会話しながら続ける体力に驚く。観ているだけで疲れる。
    行き逢うのは泥酔した男やパンパン、非常線で検問をする警官、肥料桶をリヤカーで引く農夫。(女が滝沢花野さんだとは気付かなかった)。
    後ろから足音がする。ずっと後をつけているようで何者か訝しがるが、その男(金子岳憲氏)は煙草の火を求める。ソン・ガンホの茂木健一郎風味な風貌。
    夜通しその男と並び歩き話をしていく構図。
    特筆すべき演出は可動式の大きな立木。どういう仕掛けになっているのかそびえ立つ見事なる一本の木を場面展開によって役者が動かしてゆく。いろんな使い方。
    車の音とライトが走る。夜の甲州街道で煙草を吹かす。もくもくと煙。
    男はどこに向かっているのか?かなり遠く遠くまでだ。

    RCサクセション「多摩蘭坂」なんかが似合う世界。

    多摩蘭坂を登り切る手前の坂の
    途中の家を借りて住んでる
    だけどどうも苦手さこんな夜は

    ネタバレBOX

    まあ、内容はつまらなかった。どうにか肯定しようと頑張ったが力足りず。逆に今作に感銘を受けた人の意見が気になる。皆寝ていると思ったが客席は結構頑張って観ていた。これをわざわざ観に来ようと決めた老人の信念の成せる技。(三好十郎のレアな戯曲)。ただ役者陣は超一流。(石橋徹郎氏は山崎一氏の風格すら感じた)。もしかして最後まで観たら作品の評価が引っ繰り返るかも?と期待させもした。このシリーズ、戯曲を徹底的に掘り下げるコンセプトは面白い。もっと短い作品の方がやり易いと思う。

    三好十郎が悪いんじゃなくて時代が違いすぎるのが全て。敗戦後を恥知らずに生き抜く知識人の惨めさを自ら背負い、この世の全てに馬鹿馬鹿しくなっているまともな連中にメッセージを送るホン。捨て鉢になって殺人や自殺を思い詰めている者達よ、実は全く俺もそうだ。出家をして全てを捨てて無になりたいとも思う。だが俺はこの牢獄から動かない。ここで苦しみ抜くことこそが俺の自殺方法だからだ。(日々の単調な日常を続けるという自殺の形)。

    舟に乗っていると揺れる。揺れまいと抵抗すると酔う。舟と一緒に揺れている自分を許容すること。舟=世界。世界の一部である自身を否応なしに認めてこそ、揺れている世界を冷静に観察できる。この残酷で無意味な猿の世界で揺れ続け、自己嫌悪にうんざりしながら。

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    2025/04/19 13:55

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