白い輪、あるいは祈り 公演情報 東京演劇アンサンブル「白い輪、あるいは祈り」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    これも傑作。面白かった。
    名奉行として名を残す大岡忠相(ただすけ)。作者不明の「大岡政談」として草双紙、講談、落語で大活躍。その中の一つ、大岡裁きとして有名な「子争い」。元ネタとされるものは無数にあり、その中で最も古いのは「旧約聖書」の「列王記上3章」。それを描いた「ソロモンの審判」という絵画も有名。今作は13世紀の元(中国一帯をモンゴル系が支配した時代)の作家、李行甫の書いた戯曲『灰闌記』、それを翻案したベルトルト・ブレヒトの『コーカサスの白墨の輪』が原作。2015年、鄭義信(チョン・ウィシン=てい・よしのぶ)氏が韓国にて歌劇・唱劇(チャングク)としてアレンジ。歌いながら物語を語る伝統芸能パンソリを土台に芝居として構成し直した。

    鄭義信氏の良い所が揃っている。笑いの一つ一つに拘り、本当に観客を笑わせようと練っているのが伝わる。下ネタもガッチリ。音楽の久米大作氏の曲も素晴らしい。一曲も捨て曲がなかった。演出の求めにより、俳優陣の魅力がかなり引き出されていて一人ひとり見せ場あり。ブレヒトに興味ない人も素直に楽しめる音楽劇。皆何役も兼ねるのだが驚く程衣装もメイクもがっちり変えてみせる。懸けるエネルギーが半端ない。そのエネルギーを浴びる為の舞台なのか。

    この劇団は学校巡回公演を行なっているのが強み。演劇に興味のない、初観劇の学生達を相手に楽しませるには腕がいる。お約束が通用しない世界で何が伝わり何が伝わらないのか、ハッキリしてくる。
    今回の語り部、アツダクを演じた洪美玉(ほん・みお)さんなんか強い。ただの呑んだくれのエロ爺。
    ヒロイン、グルシェ役永野愛理さんは流石。鄭義信氏の演出との相性がいいのでは。ジブリヒロインのように輝いていた。イチャつきキスネタが決まる。
    彼女と婚約を交わす衛兵シモンは雨宮大夢氏。他にも何役かこなすのだがグルシェの兄、ラヴレンティをラヴとレンティの二人に分けて演ずるギャグが最高。このアイディアは狂ってる。
    領主他の公家義徳(こうけよしのり)氏は第二幕、ショーケンみたいな絶唱シーンあり。
    領主夫人ナテラは福井奏美(かなみ)さん、何か甘いもんを食いつつおんぶを求める。
    彼女を護衛する口髭が決まっている三木元太氏。この人も凄かった。全ての役で観客を沸かせた。唾がかなり飛ぶので共演者は大変。
    クーデターを率いる裏切りの胸甲騎兵、浅井純彦氏。音の鳴る鞭の小道具がカッコイイ。つまみ枝豆っぽい邪悪さ。
    志賀澤子さんと真野季節さんの老婆コンビのギャグ「狙われる〜!」「犯される〜!」が炸裂!
    肩から吊るしてクンチェ(バチ)で叩く韓国の伝統的打楽器・杖鼓(チャンゴ)。歩きながら前後違うリズムを見事に鳴らすのは戸澤萌生(もえみ)さん。前村早紀似。

    劇団の代表作になる完成度。ラストも見事。

    ネタバレBOX

    アツダクの物語がよく判らなかった。イマイチ彼のキャラが客に伝わりにくい。(金持ちから賄賂を受け取りつつ、貧乏人を裁判で勝たせる)。

    今作で重要なのは「領主夫人に子供を渡せば大金持ちになって恵まれた生活が送れる。子供の幸せを願うならそちらの方が良いのでは?」とアツダクがグルシェに言う。
    グルシェの返答「あの子が金の靴を履いたなら、その足で私達を踏みつけるでしょう。弱い者達を嘲笑う惨めな人生が待っている。自分の不幸は怖れても光を怖れることを忘れてしまう。」

    仙石貴久江さんは?

    個人的にはラストはThe Rolling Stones「Gimme Shelter」なんか流して欲しかった。そんな気分。(作詞作曲キース・リチャーズ)。

    war, children, it's just a shot away
    it's just a shot away

    戦争だ、子供達よ、そいつはすぐ目の前にある
    すぐ目の前だ

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    2025/03/23 07:04

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