「美しきラビットパンチ」 公演情報 ゴジゲン「「美しきラビットパンチ」」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    そうか、ゴジゲンはさらに先鋭的になっていたのか!
    私は慄然となりながらも、それを強く支持する!
    …いや、なんていうか、笑いながらだけどね。

    ネタバレBOX

    高校生のボクシング部での話。
    ヒロイックな「主人公」たちと、そこには加われないと最初から諦め、自ら「空気だから」と言う高校生たちの物語。

    当然、圧倒的に私は後者に含まれる人間だ。
    だから「スポーツできるやつはみんな死んじまえばいいのだ」(そんな意味の台詞)には、笑いながら思わず拍手をしてしまう(笑)。

    ヒーローには、まずは肉体が必要だ(ビジュアルも)。そして、頭脳もあれば言うことはない。だからボクシングのうまいナオキは、ヒーローになって、クサくて熱い台詞を吐いて、モテモテ(先生と付き合ってるし)になって当然なのだ。

    それがな〜んにもないボクらは、空気になりつつも、ヒーローを、ちょっと小馬鹿にして、卑屈にイヒヒと笑うぐらいしかできない。さらにヒロイックな姿は恥ずかしいというポーズも忘れない。そして、その卑屈さは、ヒーローへのウラヤマしさを通り越して、いつか引きずり降ろしたいなんて、ココロの中では思ってたりする。

    しかし、それはあくまでシャレの中だけで、本気ではない。だって、ヒーローのことは、ホントは好きなんだから。そしてそちら側にも行ってみたいと、どこかで思っていたりする。

    だから、実際にグローブに画鋲を入れたり、醜態を写メに撮ってばらまくなんてことには、本当は気持ち良さを感じない。
    しかし、本気で痛い目に遭っている者たち、もっすーや優太郎には、そういうシャレは通用しない。なぜならば、彼らの境遇はシャレになっていないからだ。彼らを痛めつける者たちにとっては、シャレであったとしても。この対比が、きついし、なんてうまいんだろうと思う。

    つまり、「空気」であるはずの彼らにも、実はもう1段ヒエラルキーが存在していたのだ。気がつかないけど。高校生でなくても、そんなことがあるなんてことには鈍感になっているのだが、「いざ」というときには、それが露わになる。
    そして、「いざ」というときが、訪れてしまう。互いにぐちゃぐちゃしているうちにだ。

    いろんな気持ちが渦巻いて、出口なしの状態にある。誰かに追い詰められたのではなく、自分に追い詰められてしまった。それは、前作、前々作でも同様だった。そして、ゆるく(あるいは軽く)爆発していくというプロセスも同じ。

    しかし、今回は、その爆発がまったく違うのだ。
    身体の中のガス成分は、登場人物たちがそれぞれに違う意味で発酵させていて、すでにパンパンになっていたのだ。だから、爆発するきっかけさえあれば、連鎖的に誘爆して、でかい、とてもでかい爆発になっていくのだ。

    その爆発には、ある種の連帯感さえ生まれる。「負」の連帯感がお得意の、ゴジゲンらしい発想だ。
    集団心理も相まって、より「薄っぺらく」明るく、そして恐怖する一瞬が訪れる。
    もう「童貞をこじらせた」なんてことを、軽く突き抜けてしまった。
    突き抜けて、女子トイレの壁まで破壊して、いろんなルールも無用になってきた。

    ヒロイズム=ミュージカルという短絡さも素敵だ。
    そして、最後にロッカーが語り、ピンクのウサギが現れる、空虚な明るさは、メルヘンでもファンタジーでもない。そこに感じるのは、ただの恐怖以外の何モノでもない。

    ま、横滑りし出してからのすべては「常に妄想の中で生きているであろう」、「覚醒」した、もっすーのアタマの中のことなのかもしれないけれど。
    その境界線のなさ、曖昧さには、単純に戦慄を覚えてしまうのだ。

    そして、そのすべては観客が「笑いながら」の中で進行しているのだ!
    (ただし、毎回その笑った口の中に、得体の知れないナニかを投げ込んでくるんだけど)

    ああ、なんと素晴らしい舞台!
    これに共感(…か?)できるってことは、「どうなのよ」とは思うけど、しょうがない。

    この地点に立つということは、次回は大変なことになりそうな予感がする。確か、次回は『神社の奥のモンチャン』の再演だったはず。これを初演より遙かに大きな高円寺の舞台で、さらに破壊するのか、原点回帰になるのか興味津々なのだ。

    役者では、コーチを演じた加賀田浩二さんが、おいしいポジションでいい仕事をしていた。また、ナオキの弟役の東迎昴史郎さんの、後味に残るようなイヤな感じはなかなか。さらに、3年生の服部を演じていた本折智史さんの卑屈さがよかった。
    ゴジゲンの2人は、いつもの感じで確実感。

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    2010/09/20 09:58

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