栗原課長の秘密基地 公演情報 SPIRAL MOON「栗原課長の秘密基地」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    面白い、お薦め。
    説明にある「栗原課長の初仕事は、伝統ある『きつつき賞』の授賞式、15分で終わる予定の式が次から次へと…」の通りであるが、秘密基地がいかにも児童文学絡みで ラストシーンは秀逸。次々に判明する事実、その対処に追われる編集部と審査員の荒唐無稽とも思える会話と行動が、なぜかリアルに思えてしまう。脚本の面白さもあるが、やはり演出が巧い。大勢いる慌ただしい場面から 急に2人だけの静かな場面へ、多くを語らず 何気なく照明を諧調させ、しみじみとした情景を描き出す。心憎い心象付である。
    (上演時間2時間 休憩なし) 

    ネタバレBOX

    舞台は陵文館主催の平成14年 第18回きつつき児童文学大賞授賞式会場。正面に横長テーブルと椅子、上手側にパイプ椅子3脚、下手側にも横長テーブルと椅子が配置され、壁には時計が掛けられている。自分が観た回は13時45分を示し、終わったのが15時45分で上演時間2時間を表す。15分の授賞式が2時間に及ぶことになった展開を面白可笑しく順々に展開するため、観客にとっては分かり易い。同時に授賞に係る様々な不条理が描かれることによって栄誉(ここでは児童文学賞)の選考とそれに関わる人々の悲喜交々が切々に描かれる。特に<児童文学>と<大賞>という設定が上手い。単に<文学賞>、<新人賞>であれば、清濁併せ吞む大人の世界も、児童文学ともなれば 純真な子供への読み聞かせとなり下手な小細工は通じない。また新人賞では書き直した作品に対して課長が下す「該当なし」判断が難しくなる。

    タイトルにある栗原課長は、ビジネス情報誌の敏腕編集長だったが、不倫相手からセクハラの噂を流され左遷という経緯。出版業界の厳しい経営環境下を背景に児童文学部門はこの賞の存在(権威)に負っている。その授賞を巡って二転三転し漂流した揚げ句の結末は、課長の会社での立場を危うくするだけでなくリストラという人生そのものが破綻するかもしれない。セクハラに関しては事実ではないことを受賞者・受賞作品の疑惑に準えながら展開する。脚本の力と演出の工夫、この絶妙なバランスが本公演の魅力だ。

    出版社は利益を上げること、読まれる児童文学書を刊行するという二面を持つ。社で働く編集者と選考委員、受賞者、さらには読者代表者といった立場の異なる人々の正論、思惑や裏工作が実に面白く描かれている。人物設定の上手さ、課長を始め児童文学部署の隆盛、選考委員としての名誉と報酬、推理小説家志望で何年も落選し続ける男、そして児童文学が本当に好きな大賞受賞者、AV女優で佳作入選者、そして賞に恵まれなかった児童文学小説家などが その立場や本音を激白する。そこには児童文学の心が置き去りにされ大人の事情が優先する矛盾や皮肉。その人物の座る場所や立場、受賞席における弱腰、一転して下手側の控え席での本音・暴露発言といった違いで「忖度」的な態度が垣間見える滑稽さ。

    さて、上手壁に掲げられている平成14(2002)年は、電子書籍配信が始まっていたり、ハリー・ポッター賢者の石ほかシリーズも始まった。公演の中でも人気シリーズにあやかった児童文学作品が現れないかと言った台詞があった。世相を反映させた観せ方も上手い。
    最後に、秘密基地は子供の頃の遊び場であり思い出の場所。同時に逃げ場であったかもしれない。しかし公演では、心に残っていた児童書を通して生きる<勇気>を得た場所にもしている。自分にとっては、実に心地良い結末だった。
    次回公演を楽しみにしております。

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    2024/11/14 18:01

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