忘却曲線 公演情報 青☆組「忘却曲線」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    時に醸されるもの
    そこには匂い立つ時間がありました。

    想いに満ちた時間たちなのですが、
    その時間が舞台上でとどめられるのではなく
    歩んでいくことで、
    さらなる薫りを醸し出し
    溢れさせていく・・・。

    秀作だと思います。

    ネタバレBOX

    それは日記を書く家族たちのシーンから始まります。

    ゆっくりと闇が解け、
    舞台上で思い思いにノートに向かう
    家族の姿が浮かび上がる。

    冒頭に日付が読み上げられ
    これが夏の物語であることを告げられる。
    その一言が鮮やかで、
    家族の昔がすっと浮かび上がり、
    いくつもの8月が重なり
    観る側が舞台上の空気に落としこまれていきます。

    はしゃぐ子供を叩く母親から、
    女性としての横顔が垣間見える。
    まるでフォーカスが定まったように
    若くして母親となった女性の姿が目に焼きつく。

    日記を書けば詩を書けるようになるという
    夫の言葉に従う母親の純真さや、
    若い女とともに父親が逝ってしまった日にも
    忘れるため書かれた日記に織り込まれた諦観。
    プリンのこと、幼い下世話な想い、母親の誕生日。
    互いの日記につづられる
    子供たちの幼いころの姿や
    失踪した母親への想いまでが
    船を思わせるその家の中でひとつになって・・・。

    姉妹と弟、さらに姉の夫を含めた
    今の家族たちの質感も巧みに描かれていきます。
    母がいなくなった日の気概をそのままに生きている長女。
    奔放さを持ちながら失意とともに戻った次女。
    どこかで夢を抱えたまま暮らしている三女。
    さらには長男のシャイでやさしいところ。
    ぶどうや卵焼きなどのエピソードに
    時間がしたたかに繋がれて・・・・。
    日記に刻まれた時間と
    それぞれの今がしなやかに重なっていく・・・。。

    忘れる為に日記に綴られたことたちは
    楽しいことばかりではないはずなのに、
    柿の渋さが干されて強い甘味をかもし出すように
    その抱えきれないような苦さも
    やがて、思い出の中で
    どこか曖昧に、切なく混じりあい
    潮風の感触や夕顔の甘い香りとともに
    夏に薫り立っていきます。

    2度と会えなくなっても
    それで終わりになるわけではないという。
    反芻することは大人の悦びだという・・。

    猫を糸口に
    長男の母との思い出から、
    さらには次女と三女が絡み
    長男の友人と三女の会話へといたる
    夏の時間の混在に取り込まれる。

    暑さにどこかぼやけたような切なさをもった
    Summertimeの
    甘く包み込むような歌声に彩られた過去が
    音を研がれて今にフォーカスされる質感に息を呑む。

    長男の友人が家を訪れることから
    したたかに観る側にも開かれていく
    姉妹たちが抱えたそれぞれの今。
    縫いこまれた
    その苦さが心を揺らします。
    でも、かつてそうであったように、
    忘れるために日記につづられた今も
    やがてはきっと重ねられた夏の中に埋もれていく・・・。

    東京に戻る次女、
    日記帳を送られた三女、
    そして夫と未来を語ろうとする長女・・・。

    綴られ
    さらに綴られていくであろう
    家族たちの夏の質感たちに
    深く浸潤されたことでした。

    今回の舞台には
    これまでの青☆組の作品のように
    登場人物たちを描く繊細さを
    それぞれのシーンに極めるのではなく、
    物語を流れる時間に編み込んでいくような
    力があって。

    だから、
    冒頭、女の香りを強く感じたその姿も
    彼らの母親を観る姿に塗り替わっていくし、
    それゆえに、一人の女性の生きざまが
    より深く鮮やかに浮かび上がってくる。
    日記に書かれたビターな出来事も
    その事実ではなく
    時に醸成された
    それぞれの登場人物の感覚で
    観る側を息が詰まるほどにしっかりと
    伝わってくるのです。

    作り手が、刹那を描く力にとどまらず
    さらなる手練を身に付けたことを
    強く実感した作品でもありました。



    ☆☆☆★★◎◎△△

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    2010/09/11 09:59

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