つきかげ 公演情報 劇団チョコレートケーキ「つきかげ」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    面白い、お薦め。「白い山」の続編(5年後)
    昭和25年10月頃から新宿大京町の病院兼自宅へ引っ越す迄の斎藤家を描いた物語。話の中心は、偉大な歌人であり1人の男の晩年、それを家族の視点を通して<人間・斎藤茂吉>を炙り出す。突き詰めれば「老い」と「死」に向き合い、どう生きるか といった死生観に繋がる。最大の見せ場は、茂吉と妻 輝子の会話だろう。茂吉の苦悩「ひとりで生まれ、ひとりで死んでゆく」、その無常の儚さに対し 輝子の答えは実に単純明快で、思わず頷(肯)いてしまう。とは言え、人の死生観など人それぞれで決めつけることなど出来ない。

    「白い山」が、戦中/戦後の茂吉の芸術家(歌人)としての思いであれば、本作は1人の男、もっと言えば根源的な人間の思いを描き出している。それは「偉大な歌人」という近寄り難い人物から、其処らにいる老人の嘆き 葛藤のように聞こえる。斎藤茂吉という人物を「白い山」と「つきかげ」、その前/後編とも言える紡ぎ方にしたのが妙(勿論 本作だけでも面白い)。さらに脳出血の後遺症という身体的な不自由を描くことによって、老いと病 そして死の影が忍び寄っていることを否応なしに突きつける。

    登場人物は、茂吉を中心とした斎藤家、それに弟子の山口茂吉を加えた7人。その中でも妻 輝子を演じた音無美紀子さんの演技が凄い。確かに演技だが、そういうことを感じさせない自然体、本物の斎藤輝子がそこに居るようだ。開幕 明転後、火鉢に向かう音無さんが目の前におり驚いた。もう自然な振る舞いで一気に物語の世界へ誘われた。
    (上演時間2時間15分 途中休憩なし) 

    ネタバレBOX

    舞台美術は上手に洋室があり丸テーブルに椅子、下手の和室には文机や書棚、中央奥が玄関へ通じる廊下。客席側に座卓や座椅子そして火鉢。家族団欒で語られる近況、主である斎藤茂吉は病で臥せっていたが、何とか介助を得ながら歩く。その弱々しい姿は、「白い山」からは想像できない。

    茂吉は 歌人として詠みたい歌がまだある。しかし 病によって あまり時間が残されていないことを実感する。老いという抗えない現実、一方 息子や娘の若さが羨ましくも妬ましい。夜中に起きて苦悩や葛藤する姿、茂吉曰く「自分は何者かになれたのだろうか」。そんな茂吉に輝子は、歌人として名を馳せ 斎藤病院を残してくれた。輝子は「生まれて死ぬまでに どう生きるか」、続けて「私以上でも以下でもない」と悟ったような台詞。茂吉は「おまえは強いな」と沁み沁み。この変哲もない会話が実に味わい深い。

    夫婦の会話とは別に、息子や娘たちが父の病気見舞いを理由に訪ねてくる。長男 茂太の経過診察、長女 宮尾百子の(嫁いだのに)無心、次男 宗吉の思い、そして次女 昌子の縁談など、何処にでもありそうな日常が描かれる。大声を出していた頃の茂吉ではなく、孫の話をする時などは 好々爺。歌人としての茂吉は、弟子と全集編集の話をすることぐらい。そこに晩年の歌人と1人の男の姿…悲哀と慈愛を夫々描き出した。

    全体的に落ち着いた色彩の照明、それによって昭和20年代の普通の家族風景といった雰囲気を漂わせる。薄暗くし スポットライトによる心情表現など効果的な演出。音響音楽は、場転換の時に流すだけ。まさに演技(力)だけで斎藤茂吉という人物像とその家族の思いを綴った といっても過言ではない。観応えある好公演。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2024/11/09 04:36

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