実演鑑賞
満足度★★★
地方都市可児市(確か名古屋周辺)の公共劇場は芸術監督に東京の演劇人を迎えて演劇活動を行ってきた。東京から俳優も参加して東京公演も行ない積極的な活動をしてきたが、コロナ明けのこの公演の席ビラには芸術監督の名前は見当たらない。その詳細は解らないが、人間が身を挺してやる演劇にはコロナは様々な形で深い打撃を与えたのであろう。この作品は新人の劇作家、ベテランのプロ演出家による地方を舞台にした一幕劇である。
コロナ禍の中で出発した作者・竹田ももこは、故郷・高知南西部の独特の風土を舞台にしたこの作品で劇作家協会の公募作品に入賞して劇作家として出発した。演出のマキノノゾミはその最終選考にあたっている。舞台を製作した中京地方の可児市とは関係ないが地方の演劇団体が製作する作品として、選ばれたのかもしれない。1時間半の小品である。
内容は地方に生きる地場産業の工場(海産物の加工工場)が舞台に取られており、経営にあたることになったに二・三十代の女性姉妹の葛藤がドラマの軸になっている。こういう地域社会の特性を生かした舞台設定で成功した作品は多くある。四国のへき地はさまざまな作者に描かれたことがあるが、この作品も風土のなかに紛れもなく日本の現代の地域社会の課題を巧みにとらえている。登場人物の配置も、筋立てもうまいもので、ベテランのマキノは舞台にアクセントをつけて運んでいる。しかし、地域産業の課題、身体障碍も含む姉妹の葛藤、都会と地域の地域差に生きる人々の社会観など、多くのテーマを同時並行で一場(昔からある漁業の作業小屋の工場の事務室・このセットは非常に良く出来ていて感心するが)で五人の登場人物のやりくりで扱おうとしたために、全体として薄味になってしまってせっかくの特異な場面設定が生きていない。
かつて数年前にこの劇場で見た同じく漁村を舞台にした庭劇団のペニノの「笑顔の砦」のような圧倒的なリアル感が乏しい。僻地物でも蓬莱龍太の「デンキ島」の離島の少女の焦燥感のような存在感がない。そのような孤立感からは逃れているところがこの作品のいいところでもあるが、それならそこにもっと心を打つ真実が欲しい。それは東京でも上演される地方発の多くの作品にも言えることなのだが、無理を承知でi言えばそこを描いてこその地域演劇である。