忘却曲線 公演情報 青☆組「忘却曲線」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    いつも「忘却曲線」の外にある
    丁寧で淡々としながら、なにげない台詞が活きてくる。
    あいかわらず時間と空間を交錯する演出は巧み。

    吉田小夏さんは、どんどん研ぎ澄まされていく印象だ。
    いろんなモノをそぎ落としたというわけではないのに。

    ネタバレBOX

    母は、子どもたちにとって、「過去」の象徴である。「過去そのもの」である、と言ってもいいだろう。
    母の残した「日記を書け」という言霊は、残された子どもたちに「呪縛」として刻みこまれた。「日記」は「過去」そのものである。

    母という地場は偉大である。トラックにぶっかって砕けてしまった父は、もう「いない」ので、過去なのだが、母は「過去であって過去ではない」。
    つまり、「そこにいない」ことで「過去」でもあるし、「現在進行形」でもある。これは辛い。しかも、母の両親がかつて住んでいた家に住み続けているということも相まって、二重三重に掛けられた呪縛からは、子どもたちは絶対に逃れられないのだ。

    呪縛を解くのは母しかいない。
    だから、母は戻ってきて、その「死」によって、子どもたちを解放する。

    母と子、姉妹と弟、そして、夫婦という「家族」という絆は、微妙にそのズレがある。そのズレが、ときには辛く、ときには温かい。声を荒げる姿は、誰しも自分の姿と重なって見えてしまうのではないだろうか。家族だからこそ、声を荒げてしまうことがある。これは他人から観るとキツイ。
    その意味においても、本作で唯一の(今のところ)「他人」である山中という視点を入れたことは、うまいと思った。

    実家から独立して暮らすということは、ある意味、ここの家族のように、誰かが家を出てしまったことに等しいだろう。

    だから、この設定や台詞に実感できる部分がある。
    遠くにいる両親や兄弟を想い、そこからは、弱いようで強い引力にいつも引っ張られている。
    たぶんそれは、実は「死」ぐらいでは断ち切れることはないのだろう。
    つまり、「家族」は「記憶」ではないということ。したがって、「家族」は「忘却曲線」の外にいつもある。

    母と家の地場にがんじがらめの妻を夫は理解できない。しかし、たぶんこの夫だって、自分の家族の引力から逃れることはできていないはずだ。
    2つの家族の引力に引っ張られつつ、夫婦は一緒になっているのだ。
    だからぶつかりもする。相手側の引力しか目に入らないし。

    ラストに、母が町に戻ってきて死を迎えてしまうのだが、それは、「母による束縛と解放」の手段ということらしいのだが、やっぱりイマイチ納得がいかない。

    戻る理由(つまり出た理由)を具体的に示してほしいわけではないのだが、私にとっては、納得できる戻り方ではなかった。
    まるで、「物語を終わらせるために死んだ」ようにしか思えなかったからだ。

    私は、観ている間、後半で、母がネコに変わるあたりで、「ネコのように死んだ姿を見せないで消えていくのか」と思ったのだ。
    だから、母の死は具体的な形ではなく、家族が「察してしまう」という方向で解放されていくのだと思ったのだ。
    それは、すなわち、子どもたちの「独立」や「独立の芽生え」によってだ。
    長女は、夫と家族を作り直し(てっきりラストに自分が「母」になって「母」との決別と、「母」とのさらなる強い関係性を構築するのかと思った)、次女は長い休息を終え旅立ち、三女は新たな家族の予感をさせ、長男もさらに一歩を踏み出すというような。

    母役の方がたぶん一番若い方ではなかっただろうか。母は歳を取らないのだ。そして一番色っぽい。それは「パパに恋している」から。
    それにつけても「パパ」は可哀想(笑)。

    最後に母親に渡すのは、昼顔だったらよかったのにとも思った。

    この舞台からは少々逸れてしまうのだが、こんな「家族」のカタチさえも、まるでメルヘンや昔話のことのように思えてしまう事件が多発することも事実でもある、というのも悲しいことだ。

    役者はすべての方が、とても丁寧に演じていた。母を演じていた井上みなみさんは、過去の中で、艶々と活きている生命感が溢れていた。次女(小瀧万梨子さん)の強がった感じと、三女の大西玲子さんが印象に残る。

    青☆組は、吉田小夏さん個人のカラーがとても強い印象だ。本人はすべてフィクションであるとおっしゃっているが、どうも「素」の本人がさらけ出されているように思えてくる。
    具体的な吉田小夏さんのご家族の様子や内容ではない、「コア」の部分がだ。
    それがコアであればあるほど、自分をさらけ出し、さらに他人をもさらけ出すことになる。そういう鋭さがあると思えてきた。

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    2010/09/07 06:58

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