現代韓国演劇2作品上演「最後の面会」「少年Bが住む家」 公演情報 名取事務所「現代韓国演劇2作品上演「最後の面会」「少年Bが住む家」」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    『最後の面会』

    流石の傑作。これを日本人ではなく韓国人が記したことが文化の強度を物語る。日本人はこんな話、もう誰も求めてはいない。日本人が欲しいのは手が届く恋愛物語と成功物語だけ。この国の教育はきっと完成されたのだろう。支配層の理想通りに。

    刑務所の面会室、机の上に仕切りのアクリル板のみ。死刑囚と面会人はシーンによって位置を入れ替えもする。客席に背を向けて座る手前側の者の表情は板に反射して映る。ステージの角の隅に丸椅子が一つずつ。二人の刑務官はかつての父親になったり、事件を起こす前の自分になったりする。

    オウム真理教、死刑囚林泰男(山口眞司氏)。
    長文の熱意溢れる手紙を送り面会に漕ぎ着けた女性ルポライター(佐藤あかりさん)。
    若き日の林泰男を演ずる奥田一平氏。
    国鉄職員だった生真面目な林泰男の父に髙井康行氏。

    大学を卒業しバックパッカーとして世界中を放浪。帰国後、「オウム神仙の会」(後のオウム真理教)と出会う。自己の救済の為に解脱を果たし、その上で衆生(全人類)の救済に至ろうと考えた。最終的にはこの道こそがこの世の全ての人間が苦しみから解放される唯一の方法だと信じた。幾多もの事件を重ねたオウム真理教、教団本部への強制捜査が間近に迫り、捜査の撹乱を狙って大きなテロを計画。1995年3月、5人の信者が走る地下鉄車内で神経ガス・サリンを散布。霞ヶ関駅に勤める官僚の通勤ラッシュを狙って午前8時、サリンの入ったビニール袋を床に置き、先端を削った傘で穴を開けて逃亡。死者14名、負傷者6300人。林泰男だけサリンを3袋持ち込んだ為、逃亡指名手配中に「殺人マシン」との呼び名が付く。麻原彰晃奪還の為に手段を選ばない狂信的テロリストのイメージ。

    この世を良くしたいと思った。苦しんでいる人達を救いたいと思った。誰もが公平に平等に生きる喜びを享受出来る世界に。その為には自分を犠牲にしようと。

    山口眞司氏は今一番旬な役者。出演する作品全て見逃す訳にはいかない問題作ばかり。こんな凄い存在をリアルタイムで味わえる幸福。
    是非観に行って頂きたい。

    ネタバレBOX

    韓国人作家が林泰男に注目したのは彼が在日朝鮮人だったから。高校受験の為、戸籍謄本を取り寄せるまで彼はその事実を知らなかった。

    麻原彰晃は自衛隊にいる在日朝鮮人、被差別部落出身者のリストを入手して個別に勧誘したという。その時の殺し文句は「私は盲で朝鮮人の血と部落出身の三重苦を背負って生きてきた。お前の苦しみは一番私が理解してやれる」だった。(『新潮45』で読んだ)。

    当時の感覚を伝えたい。
    1994年6月、長野県松本市で「松本サリン事件」が発生。謎の毒ガス「サリン」の散布により住宅街で7人死亡。付近で731部隊の展示会があったことからそれとの関連性が指摘された。当時の感覚では何かよく分からない時事ネタ。「魔法使いサリン」なんて普通にネタにされ、忌野清志郎率いるTIMERSは「バラ撒けサリン」と武道館で大合唱させていた。みんなそんな感じ。オウム真理教はふざけた宗教団体のイメージで織田無道とか「こんなん出ました」の泉アツノ・ライン、バラエティー枠だった。
    明けて1995年1月、阪神・淡路大震災が発生。それも東京ではリアリティーがなく、どこか遠くの出来事のようにブラウン管を眺めた。3月、地下鉄サリン事件が発生。職場でテレビを見てすぐに『太陽を盗んだ男』を連想。原爆の代わりにサリンを撒いたんだと思った。こんな世の中、ぶっ壊しちまえと皆思っていたので周りはただ面白がった。二日後、ガスマスクを着けカナリアの入った籠を下げた捜査員がオウム真理教の施設を強制捜査。その辺から現実感が失せ、何だか誰かの妄想の中に取り込まれたような感覚。新聞TV週刊誌、プロレスの煽りのような刺激的な惹句が躍る。じゃあ今まで自分達が握り締めていた筈の現実感とはそもそも何だったのか?夢の中で茫洋とする感覚。何が正しくて何が間違っているのか?オウム真理教関連の書物を貪り読み、自分は入信していた可能性があると気付いてゾッとした。

    オウム真理教絡みで一番衝撃を受けた作品は山本直樹の漫画『ビリーバーズ』。(映画化されたらしいがそれは観ていない)。今作の作家、キム・ミンジョンさんにも是非読んで貰いたい。

    ラストが要らない。こんな話が欲しい訳ではない。他国ではオチが必要なのだろうが、日本ではそんなものは不必要。日本なら麻原彰晃を肯定する話の方がよっぽどショッキング。ラストは観なかったことにした。

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    2024/10/06 18:37

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