Sea on a Spoon 公演情報 こゆび侍「Sea on a Spoon」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★

    罪と罰とを乞う痛み
    犯した罪と背負う罰に目を瞑り、その狭間でゆれうごく、
    誰かのこころのなかに棲む闇を
    固唾をのんでずっと見守っているような一時だった。
    物語にはたくさんの詩といくつかの幻想で溢れていたけれど、
    誰のことばを信じていいのかよくわからない、とおもうことも多々あった。
    この話に出てくるひとたちの言動には全然共感できないけれど。
    もしもそれが誰かに認めてもらうための正しい選択であるのだとするならば、
    あながち否定できないかもしれない・・・。

    ネタバレBOX

    原発の補助金しか財源のないさびれた港町、浜和町の町役場に勤める宇見コズエには、誰にも言えない秘密がある。
    それは今から20年前。彼女が7歳の時。
    村人たちを『幸福で満たされた地』へと導く『救い手』(救い人)であるのは、自分だと偽った彼女を信じた村人たちが、全員残らずナメクジのように海に溶けてしまい、ひとり生き残った彼女はこのさびれた港町でひっそりと暮らしているのだった・・・。
    世にも奇妙な宇見の真相を確かめるために市役所へやってきたジャーナリストの向井。

    その頃役場では、原発のふもとで開催される数万人規模のロック・フェスティバルの準備に追われていた。忙しくて来客に構ってられないといった様子で、原発職員、フェスティバル実行委員らと打ち合わせをする職員たち。

    ここでの会話はフェスのマスコットキャラクターのことだとか、アクアウォーターに放射能が汚染されているだのいないだのとか、役場の職員と原発職員が恋仲にあるだとか、そういったとりとめのない事柄ばかり。

    そんな中、向井は宇見にある忠告をする。
    「ひょっとしてアナタの周りにいるひとたちはあなたに何かを隠してはいないだろうか・・・。」と。その言葉をきっかけにして物語は大きく舵を切る。

    向井の忠告した通り、宇見の周りにいる人間は皆テロリストであり、フェス当日に原発を爆破させることを目的としていたのだった。

    犯行前夜、明日のルート確認を行う際に目印として地図上に配置していったホタルを一匹づつ潰していくシーンは、ホタルの光、原発が爆発する光、そしてその光は人間の生命を消滅させるという意味を持つ、象徴的なシーンだった。この時に背後で流れるふわふわとした音楽はむしろ、人間のダークサイドをゆるやかに加速させていて、やわらかい狂気を醸しだすのに充分だった。
    人間の凶暴性に無垢な笑顔が宿ったような、この空気感は、とても独特で、すごくいいとおもった。

    ただ、この場面に辿りつくまでに、彼らのバックグラウンドが雲隠れしていたので、唐突に『テロリスト』という旗を掲げられたように思えてしまってことも事実。

    たとえば彼らのなかには、宇見の『救い手』によって両親や友人が犠牲になったひとはいなかったのかな、とおもったりもした。

    彼らが革命を起こすには、みなそれぞれおもうところがあって『テロリズム』へと掻き立てられるものではないのだろうか。

    また、仮に何者かわからない彼らによる突発的な理不尽なテロリズムだとしても、動機や思想がわからないまま犯行に及ぶとはおもえないし、テロリストらが犯した罪を宇見のせいにして、宇見はそれを罰として背負うことで20年前のあの事件をチャラにする・・・というのも何だか安易におもえてしまった。

    宇見の20年間のなかで彼女と関わったことのあるひとたちのエピソードが
    会話のなかから表象すれば、時間の『重み』や彼女の『痛み』が伝わってきたかもしれないのだが。

    そんな事由から後半部分が、テロリズムの描写に多くが費やされ、宇見の件が結果のみ言い渡されたような展開がちょっと腑に落ちなかった。

    個人的には、この作品はテロリズムなんか引用しなくても描ける主題だったのではないかとおもう。たとえば、町役場の人間たちに、彼女と何らかの繋がりを持たせてそこから過去をさかのぼっていくとか・・・。

    冒頭で彼女が20年前のあの時の気持ちをモノローグする詩的な場面がラストの罪を背負うというところでしか生かされなかったことがとにかく勿体ない、と感じたのでした。

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    2010/09/02 01:40

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