別役実・原作 「カンガルー」を経て 公演情報 有機事務所 / 劇団有機座「別役実・原作 「カンガルー」を経て」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    不条理劇とは…始めと終わりにその説明のようなものがあり、例えば 現実における「大東亜戦争」「学生運動」、TV番組の「ゲバゲバ90分」「8時だョ!全員集合」という言葉を並べる。その行為そのものは虚しいものであり、TVに至っては娯楽番組を示しているようだ。

    公演は 初演当時の台本で上演とあるが、当初を知らないため その違いは分からない。しかし描かれている内容は、まさしく不条理劇ー別役の世界ーだ。
    (2時間25分 休憩なし 転換後 演奏会約30分) 

    ネタバレBOX

    舞台美術は、外国航路の波止場。天井には万国旗、上手に直方体(ベンチや棺桶イメージ)、下手に外灯、救命浮輪や係留杭が見える。何となく人生航路の無常が…。
    先に記してしまうが、劇中 生演奏は場面の繋や状況変化の表現に効果的だった。その音楽(4曲、作詞は全て別役 実)は壮大・雄大で大らかなもの、癒しのような優しいもの。中には宗教音楽かと錯覚するものもあり、選曲と演奏は好かった。

    物語は、外国へ行きたい夫婦や男が現れ、船員らしき男に乗船券は偽物と言われ 戸惑っている間に船は出航してしまう。折角、船内食堂へ入るためのネクタイやハンカチを持ち、心構えである勇気を持ったのに。船員が後から来た男に向かって「お前はカンガルーだ」、だから乗船させられない。そして場面が次々と変わり、娼婦とその彼氏、偽乗船券を売りつけたヤクザなど脈略があるのかないのか。劇作テクニックによる異化効果で、設定や視点の変化を見せる。男は、或るキッカケから人間社会の波に飲み込まれ、対人や運命に翻弄されていく孤独と、己の死に向き合い続ける。最後(期)は、男と娼婦が平穏に暮らしている中、突然の不幸が襲い、男は殺されてしまう。外国への見果てぬ夢が葬式のシーンへ。

    男は外国、特にインドへ行きたかった。劇中、夫婦や男は行きたい国を言い、それを万国旗や英字新聞、そこに文化(異国)の違いを重ねているようだ。また哺乳類という点ではカンガルーと人間は同類、しかし その諸々の世界は違う。二足歩行で人は手で発明や発見をし、カンガルーはと言えば…。
    別役作品は、分かり難くても いつの間にか引き込まれてしまう、そんな魅力がある。しかし本作は流れが何となく ぎこちなく(銃声音など)、没入出来ず もどかしかった。

    この戯曲は1967年作。その当時 外国へ行くことは 現在に比べもっと大変、それだけ未知であり夢、冒険的な思いも強かったであろう。しかし今やワールドワイド、インターネットを介すれば瞬時に世界と繋がる。一方、特殊性・独自性は時代や状況の中に埋没し自己を見失いがち。そんな世の中でも生き続けなければならない。たとえ〈不条理〉であっても、そんなことを改めて考えさせる公演だ。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2024/09/23 08:42

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