実演鑑賞
満足度★★★★
カナダ初演の現代劇だが、宣伝だけではどんな芝居か解らない。見てみれば、現代風俗劇でもあり、ミステリ劇でもある。登場人物は生者が6名、舞台の上に終始いる死者、と重要な枠割りを果たす登場しない人物が一人。計8名。1幕に2場、休憩なしの二時間弱。典型的な現代小劇場向きの作品である。芝居の物語の枠取りは典型的な通夜の客ものだが、設定はかなり今風でエグい。
タイトルのL.G.というのは登場しない人物の名前の頭文字でロリエ・ゴドロの頭文字である(カナダフランス語圏の話である)。
一人暮らしの老母が亡くなって家族が集まってくる。まず、長年家を出て世界的にエンバーミング(死体処理)の達人として活躍している長女(平栗あつみ)が帰郷してササッと老母に最高の装いをする。老母に身近にいた長男(本田新也)とその妻(一谷真由美)、次男と三男。他に斎場の担当者(徳永夕夏)。
長女が若くして家を出た理由は、少女期に近所の男にレイプされたことから故郷にいられなくなったからで、今もその男はそこで生き続けている(出てこない)。ミステリ的な謎は、なぜ、長女は突然帰郷して母の葬儀に自分の力量を示そうとしたのか。さらに、亡くなった老母が全遺産をその男に残すと遺言したのはなぜか。
作劇的にはエンバーミング(映画「おくりびと」の納棺師である)を舞台の上でやってみせるところを入り口(一場)にして、葬儀後の弔花に埋もれた控え室で一族の秘密が次々に明らかになっていく次第(二場)がミステリ的に巧みに展開している。最後に、なぜ、L。G。と言う頭文字をタイトルにしたのか解る。
手が込んでいて、よくある話ながら、今の観客のものにしようとしている意欲作だが、総体的に言えば、上手いのだが後味はあまりよくない。そこがクリスティ張りのフーダニットのあっけらかんとした犯人さがしとは違う現代版フーダニットの難しいところだ。俳優もつか芝居で名を売った平栗あつみの久し振りの主演だが、みなどこか堅い。人間関係に絡まない部外者の若者の徳永夕夏だけがのびのびと好演である。死体を前に陽気にもやれないだろうが、そこがこの芝居のポイントなのである。
余談で言えば、最近、本作のように翻訳者が演出まで務めることが多いが、翻訳と演出では芝居の役どころが違う。適任の感性も違うと思う。この演出者は今回を含め、初々しく好ましい演出だが、ここから先で失敗し悲惨なことになった先例も目前の例もたくさんある。この演出者はまだ若いだけにその轍を踏まれないように頑張ってほしいものだ。