L.G.が目覚めた夜 公演情報 L.G.が目覚めた夜」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 4.5
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  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    鑑賞日2024/09/07 (土) 14:00

    座席1階

    ご遺体に化粧を施すなど生前の姿のようにしてさしあげるエンバーミングで名を挙げた女性と、家族の物語。けして「死体処理」などという空疎な向き合い方でなく、尊厳を大切にする、思いを込めた仕事だ。納棺師の映画や、最近では米倉涼子や松本穂香が好演したNHKのドラマ「エンジェル・フライト」で知られるようになった仕事だ。

    舞台は山村と思われる片田舎の町。若くして故郷を去った主人公の女性は、がんで亡くなった実母の遺体にエンバーミングをしている。兄弟たちが集まってくるが、なかでも長兄は女性に対して非常に冷酷な態度を取る。このミステリーのカギを握る伏線である。
    少女時代の自分の独白から、物語はまず展開する。この女性は深夜、寝静まった町の人々の寝室に忍び込み、寝姿を眺めるという奇癖があった。鍵などかけない田舎だからということだが、よくバレないでそんなことができるな、と思いながら舞台を見つめる。
    ところが、やっぱりバレてしまうのだ。しかも、少女のあこがれでもあったスポーツマンの男の子の寝室で。ここで何があったのか、やはり、女性の独白によって物語は急展開していく。

    ゆえに、この女性を演じきった平栗あつみには拍手を送りたい。彼女の長い独白によって客席はかたずをのんで静まり返り、視線は舞台にくぎ付けだ。彼女の物語以外にも、兄弟それぞれの人間関係の秘密が次々に明らかになっていく。すべてを握って死んでいった母親の遺体の元で明かされる葬られたはずの過去。ラストシーンの演出はよかった。舞台中央の四角い扉が、最後の最後に開く。母親の情念というか、えも言われぬ強いエネルギーが放出されていった瞬間だ。
    タイトルの「L.G.」という名前の主が実は、女性の家族ではないもう一人の主人公。存在感を放って舞台に浮かび上がる姿は、亡くなった母親が墓場まで持っていこうとした強い情念に照らされてるかのようだった。

    2時間弱の物語。この舞台は面白い。一見の価値がある。

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    カナダ初演の現代劇だが、宣伝だけではどんな芝居か解らない。見てみれば、現代風俗劇でもあり、ミステリ劇でもある。登場人物は生者が6名、舞台の上に終始いる死者、と重要な枠割りを果たす登場しない人物が一人。計8名。1幕に2場、休憩なしの二時間弱。典型的な現代小劇場向きの作品である。芝居の物語の枠取りは典型的な通夜の客ものだが、設定はかなり今風でエグい。
    タイトルのL.G.というのは登場しない人物の名前の頭文字でロリエ・ゴドロの頭文字である(カナダフランス語圏の話である)。
    一人暮らしの老母が亡くなって家族が集まってくる。まず、長年家を出て世界的にエンバーミング(死体処理)の達人として活躍している長女(平栗あつみ)が帰郷してササッと老母に最高の装いをする。老母に身近にいた長男(本田新也)とその妻(一谷真由美)、次男と三男。他に斎場の担当者(徳永夕夏)。
    長女が若くして家を出た理由は、少女期に近所の男にレイプされたことから故郷にいられなくなったからで、今もその男はそこで生き続けている(出てこない)。ミステリ的な謎は、なぜ、長女は突然帰郷して母の葬儀に自分の力量を示そうとしたのか。さらに、亡くなった老母が全遺産をその男に残すと遺言したのはなぜか。
    作劇的にはエンバーミング(映画「おくりびと」の納棺師である)を舞台の上でやってみせるところを入り口(一場)にして、葬儀後の弔花に埋もれた控え室で一族の秘密が次々に明らかになっていく次第(二場)がミステリ的に巧みに展開している。最後に、なぜ、L。G。と言う頭文字をタイトルにしたのか解る。
    手が込んでいて、よくある話ながら、今の観客のものにしようとしている意欲作だが、総体的に言えば、上手いのだが後味はあまりよくない。そこがクリスティ張りのフーダニットのあっけらかんとした犯人さがしとは違う現代版フーダニットの難しいところだ。俳優もつか芝居で名を売った平栗あつみの久し振りの主演だが、みなどこか堅い。人間関係に絡まない部外者の若者の徳永夕夏だけがのびのびと好演である。死体を前に陽気にもやれないだろうが、そこがこの芝居のポイントなのである。
    余談で言えば、最近、本作のように翻訳者が演出まで務めることが多いが、翻訳と演出では芝居の役どころが違う。適任の感性も違うと思う。この演出者は今回を含め、初々しく好ましい演出だが、ここから先で失敗し悲惨なことになった先例も目前の例もたくさんある。この演出者はまだ若いだけにその轍を踏まれないように頑張ってほしいものだ。






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