口紅を初めてさした夏『ご来場ありがとうございました。』 公演情報 TOKYOハンバーグ「口紅を初めてさした夏『ご来場ありがとうございました。』」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★


    血の繋がりを考えさせる舞台だったと思う。とかく日本の浄土は血縁を重視するような傾向が強いが、この物語は一人の子供をめぐっての情を訴えたものだと感じた。主役はなんと、現在小学5年生の増田亜見。セリフも膨大なら、一人二役という役もこなし、実に堂々とした演技で秀逸だった。
    将来、バケモノになる予兆を感じた。この子が大の大人の観客を存分に泣かすという舞台は、やはり、この上なく素晴らしい!

    以下はネタばれBOXにて。。






    ネタバレBOX

    物語は真知子ママがオーナーのスナックに、少女・清水連が来訪したことから始る。この少女は真知子が結婚するはずだった今は亡きスナックの客・清水の子だ。

    連は両親の離婚後、父を交通事故で亡くし、一方で母親も連を残してイギリスへ渡ってしまってから、祖父母の居る長野に引っ越していた。しかし、父の好きだった真知子に遭いたい一心で東京にやってきたのだった。

    スナックの常連客らとの話の中で、夏休みの間だけ、連を預かることになった真知子は連によって生活は一変する。同時に真知子が幼少の頃、母親に言われた言葉「一体、誰の為に、おしっこから血が出るような思いをして働いてると思ってんの!あんたの為よ!」を思い出し子供ながらに傷ついたあの頃をも思い出す。云わば、真知子と連は似たような境遇だったのだ。

    真知子の少女時代と連役の両方を増田亜見が演じ、その心理的な表情の表現を見事に演じきる。本当に素晴らしいと思う。真知子の少女時代と今の真知子、連を絡めながら、孤独で寂しい少女の情景と、同じように清水を失った孤独な真知子の心理も描写しながら、海で遊ぶ連との夏はいつしか確実に二人を強い絆で結んでゆく。血の繋がりはないけれど、情が芽生え親子となる瞬間だ。真知子は連を自分の子として育てることを決心した矢先、連の母親がイギリスから連を迎えに来て連れ去ってしまう。

    蓮が夢想する父への焦がれ、海での連と真知子の情景、大人達が少年の頃の夏休みを取り戻したかのように海ではしゃぐシーンは楽しく美しい。その美しさはもう二度と帰ってこない一度きりの瞬間だ。蓮が真知子の化粧を見て「連もしたい」と言ったあの夏の想い出は連がさした赤い口紅と一緒に真知子の記憶に残るだろう。楽しく切ないその記憶の残像は眩しく儚い一瞬だ。

    今回も泣いた。情の通い始めた二人を引き裂いたもの。それは血縁だった。その不条理に、なんだかズシン!と心に強く響いていたたまれなかった。相変わらず、スナックの場面から一変しての夏の海の演出はお見事。更に導入音楽もキャストらのセリフの邪魔にならないようなピアノ曲でその旋律も素敵だった。


    0

    2010/08/26 19:46

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大