対岸の花火 公演情報 年年有魚「対岸の花火」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    情趣にあふれた夏芝居
    初見です。「ああ、いい気分だなぁ~」、劇場を出るとき、思わずそう声に出したくなる、久々素敵な芝居だった。東京から兄弟の一人が実家に帰省してきて、家族、友人に起こるひと夏の出来事を描いた秀作。「特別なことは何も起こらない、普通のことを普通に書いている」が、にじみ出てくるような情趣があった。つい最近、同じようなうたい文句とよく似た設定の芝居を観に行ったら、ありえないことだらけで正反対の失望する内容だっただけに、本作の感動もひとしおでした。
    若い人には古臭く感じるかもしれないし、いい人ばかり出てくるという批判もあるかもしれないが、私は安心して観ていられるこういう芝居が好きだ。たまにはこういう芝居があってもいい。昔の「東芝日曜劇場」みたいだけど。
    開演前の空調の説明や、終演後、アンケートを書いている間の作・演出家のトークにも、温かでユーモラスな人柄が表れていて、場内、笑いに包まれていた。森下さんは人情を知ってる人だと思うなぁ。「次回もぜひ、拝見したいです!」と声をかけて、劇場を出ました。

    ネタバレBOX

    両親が亡くなり、次男・裕二(南場四呂右)が跡を継いだ地方都市の和菓子屋。ネット通販のお取り寄せ商品として、予約3カ月待ちの1個200円の塩大福が人気だという。
    東京からカリスマ美容師の長男・一博(安東桂吾)が久しぶりに帰省。「有名人の御取り寄せの店」として一博の実家を取材しに、女性編集者(松下知世)が先乗りでやってくるが、裕二はにべもなく取材を断り、気まずい空気が流れる。
    やはり東京から離婚した麻琴(平田暁子)が一博と一緒の列車で酒に酔って帰ってきて、出迎えた和菓子屋の店員で母親の登紀子(安原葉子)と大喧嘩になる。
    宅配便の仕事をしている三男の拓海(山下豪)は、幼馴染の秀美(小谷美裕)と恋仲だが、独身の兄2人に遠慮して結婚を言い出せず、秀美はヘソを曲げている。
    麻琴は、高校時代、裕二と付き合っていた。デキ婚して別れた夫も顔や雰囲気が裕二に似ていたという。互いに憎からず思っている麻琴と裕二の男女の感情が出る場面が控えめで品がよく、昔の邦画を観ているようでとてもよい。
    母の登紀子がいきさつを察してそれとはなしに、麻琴を裕二に近づけるのが心憎い。平田は、大正時代の歌舞伎の人気女形、二世市川松蔦を思わせる古風な容貌。
    和菓子職人・江原(上出勇一)と隣で床屋をしている女房の真知代(トツカユミコ)の夫婦が照れながら手をつなぐときに、中年の夫婦の情愛が自然に出る(まちがっても、どこかの芝居にあったようにキャバクラみたいに妻の体を触りまくるなんて恥ずかしいことはしない)。
    向こう岸にあるスーパーの4個200円の大福を食べながら店員がする会話や、裕二のネット通販を始めた理由などに、現代の流通業界の実情がさりげなく語られる。
    店を継がず美容師になった一博と、店を継いだ裕二が本音をぶつけ合い、それぞれの事情が明らかになる終盤は、俳優の熱演で盛り上がる。三兄弟の俳優がそれぞれ魅力的。麻琴と裕二が結ばれそうな予感を残して終わる。
    嘘臭い人物が一人も出てこないし、みな演技がとても自然で台詞の間がよく、役になりきっているところに好感が持てた。拓海にほのかな思いを寄せる女店員梨々花役の前有佳や、ポーカーフェースで女優・麻実れいに似たはっきりした目鼻立ちの編集者の松下も存在感を残す。
    和菓子屋の店先の舞台美術が細部も凝っていて、実にセンスがいい。花火や金魚を描いた季節感あふれる額の絵は、切り絵かと思いきや、あとで聞くと、ちょっと値の張る絵手拭いだそうだ。花火を表す照明が臨場感たっぷりに客席を染めたのが感動もの。

    6

    2010/08/23 22:14

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  • KAE様

    コメントありがとうございます。
    年年有魚で、主宰のかたが「観劇中、暑くなったりしたら、場内の私のほうを見て下さい。その場のお客様の空気を読み、エアコンの温度調節しますから」とおっしゃられたのには感心しました。真心は伝わりますよね。きめ細かい対応を迷惑がるお客さんは少ないでしょう。いくら、口だけで人情、人情と言っても、真心あっての人情劇ですよね。
    先日、KAEさんが「ありえない描写」といわれた真逆のものが、年年有魚の劇にはありました。次回上演予定が未定らしいですが、ぜひKAEさんもご覧になってみてください。きっと御気に召すと思います。

    2010/08/24 01:16

    きゃる様

    横から失礼致します。
    きゃるさん同様、最近、似非人情劇の被害者2の私としては、お二人が、心地良い劇後感で、劇場を後にされたことを、心よりお喜び申し上げます。

    本当に、そういう上質な演劇に出会えると、心が浄化されますよね。

    皆さんの観劇距離もだんだん縮まって、あちこちでニアミスも出て来たようで、そろそろ観劇後のオフ会とかになったりして…。(笑)

    2010/08/24 00:39

    tetorapackさま

    あ、マチネでした。前から2列目の真ん中でした。初見だからチケプレ応募して、落ちたんだけど・・・
    でも、このあいだの絶望芝居の半額以下の入場料で、このグレード。安い!

    2010/08/23 23:20

    tetorapackさま

    tetoraさんもきょうのマチネだったのですか?
    裕二と麻琴のラブシーンが控えめでよかったなー。
    我々の年代には、激しいのよりはあれぐらいがちょうどよい。
    これ、脚本がいいですよね。今回の配役も素晴らしいけど、他の俳優でも観たくなる。えへへ。
    最近いろいろあったので、よけいにスッキリした。見せ掛けだけの人情劇なんかいらん!と思うとります(笑)。

    2010/08/23 23:17

    きゃるさん

     聞き忘れたことがあります。ところで、きゃるさんは、この日、マチネだったんでしょうか。私は、この日の14:00からのマチネでした。もし、マチネなら、ご一緒だったので、なんか聞いてみたくなっちゃいました。

     ちなみに私は最前列のベンチシートから数えて4列目の中央やや下手の席でした。

    2010/08/23 23:07

    きゃるさん

     たった今、自分のをアップし終えたら、自分の前に、きゃるさんのレビューがアップされている。しかも、☆5個で、冒頭に
    >初見です。「ああ、いい気分だなぁ~」、劇場を出るとき、思わずそう声に出したくなる、久々素敵な芝居だった。
    の一言。そこだけ見て、嬉しさいっぱいで、このコメントを書き始めてしまいました。

     ほんと、嬉しい!この質感を「ああ、いい気分だなぁ~」と言ってもらえて。私は、4作連続して観ていますが、いつも感じるのが、まさに「ああ、いい気分だなぁ~」の心情なのです。

    >東京から兄弟の一人が実家に帰省してきて、家族、友人に起こるひと夏の出来事を描いた秀作。「特別なことは何も起こらない、普通のことを普通に書いている」が、にじみ出てくるような情趣があった。

     はい、はい、その通りです。ここの芝居は、いつも特別なことは何も起こらないです。何か、ストーリー的にいかにも作為でつくったシーンなどはないのですが、人肌で心に沁み入る魅力があるんです。私は、ずっと、そこに魅せられ、そのことを書き続けてきました。それだけに、嬉しくてたまりません。

    >若い人には古臭く感じるかもしれないし、いい人ばかり出てくるという批判もあるかもしれないが、私は安心して観ていられるこういう芝居が好きだ。たまにはこういう芝居があってもいい。

     そうなんですよ。私は今回、たまにはリラクゼーションも良いのでは、という感じで書きました。でも、言わんとするところは、まったく同じです。

    >開演前の空調の説明や、終演後、アンケートを書いている間の作・演出家のトークにも、温かでユーモラスな人柄が表れていて、場内、笑いに包まれていた。森下さんは人情を知ってる人だと思うなぁ。「次回もぜひ、拝見したいです!」と声をかけて、劇場を出ました。

     これまた、その通り。主宰の森下さんも、まさに年年有魚の芝居そのもののような方で、話しているだけで、心がなごむ方です。

    >嘘臭い人物が一人も出てこないし、みな演技がとても自然で台詞の間がよく、役になりきっているところに好感が持てた。

     自然体でいいですよね、みんな。なんか私、応援団のようですが、まったく知り合いでもなく、なんの関係もないんです。ただ、4作の最初の芝居の「SURROUNDED ALWAYS」ですっかり参り、珍しく、会場に最後まで残って、その素晴らしさを森下さんや平田さんにお伝えし、必ず、じわりじわりとファンを広げていく劇団と確信していましたが、今回が初見のきゃるさんに、私が初見で感じたのとウリ二つのような感想を読むことができて、凄く嬉しく、また、勇気づけられました、はい、大ファンとしてです。

    2010/08/23 23:02

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