吐くほどに眠る 公演情報 ガレキの太鼓「吐くほどに眠る」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    なおの生きざま
    本当に素晴らしいと心から思う。この作品の前で頭を垂れて平伏したいくらいだ。物語の最後は破壊的で衝撃的だが、全体を通すと、優しげで温もりのある物語だと感じた。

    ワタクシの琴線にこの本がチクチクと刺さって泣けた。

    物語はなお(木崎友紀子/青年団)が舞台左で語り部のように過去の生きてきた情景を話して聞かせながら進ませ、その模様を舞台上で演出するという方法。序盤、彼女は誰に向かって語っているのか気になったが、中盤頃になって尋問を受けているような感覚に陥る。

    以下はネタばれBOXにて。。

    ネタバレBOX

    物語は序盤、家族の風景から始まる。対照的な兄と妹。「にいに」と呼んで兄を慕う妹・なおは聡明で思いやりがあって優しい兄が自慢で大好きだった。

    しかし、両親の繊細で弱い部分を全部受け継いでしまったような兄は、思春期に入るとあまりにも世の中に順応できなくなってしまい、中学3年で心臓が痛いといって自宅に閉じこもるようになってしまう。いつも自分を守ってくれてた兄が、汚い臭い存在になって、なおは兄に「気持ち悪い!」と棘のある言葉を吐いてしまう。

    その日のうちに兄は首釣り自殺未遂を犯し、一命は取り留めたものの逃げるように留学してしまう。しかし、なおの心にはこの時のショックが、自分の身に起きたことが、いかにおぞましく、この先の長い道のりに消えない何かを押し付けられ膿のように蔓延ってしまうのだった。

    このことがあって以来、なおの家族は少しずつ家族崩壊の兆しが見え隠れし、やがて母は若い男(のちに伯父と判明する)と家を出て行ってしまい、なおは「いつか母が死ぬのではないか」とそればかり考えるようになってしまう。

    この世の不条理は己の身の上に押された烙印の深さをも思い知らされるが、この先もずっとこの痛みから逃れられないことを幼くして知り、なおの孤独は痛みと一緒になおの心に同居しけっして離れないのであった。

    やがてなおは高校でバンドを結成し、恋愛もして、あたかも普通の女学生のように青春を謳歌しているように見えたが、大学生になってからの恋は「死ぬ」と簡単に言葉にするような、しょもない男との恋愛に縛られ離れることが出来ない。それは過去の兄の自殺未遂がトラウマとなって「死」という言葉に対しての恐怖がなおを呪縛するのだ。

    一方で高校のバンド仲間のえみ(高橋智子/青年団)がなおの良き親友となるが、彼女はなおを見守り手助けするポジションだ。えみがとっかえひっかえしながら付き合う男性遍歴の描写が実に面白い。男の数だけ服の数で見せる演出はお見事!笑)

    やがて大人になったなおは就職、結婚を戻ってきた実母優先に配慮しながら、決めていく。兄と社会を繋いでいるのは自分だという気負いも重なり、なお自身の心が少しずつ病んで破壊へと向かっていってしまう情景だ。更に兄の事故死の原因は自分だと罪の意識に苛まれ「私のせいでみんな死んじゃう!」という心の縛りに苦悩していた矢先、悪いことは重なるもので、その病院の屋上で「死にたい」などと、死ぬ気もない女から告白された言葉をなおは真に受けてしまう。

    元来、「死」という言葉に敏感ななおは、かつて経験したあの時の出来事が・・、なおの目に深い亀裂のような恐怖と絶望と屈辱が混じり合い、もはや拭い去ることの出来ない印が自分の上に刻み込まれてしまった、あの兄の事件が重なり合って、女を止めようともがき合ううちに誤って女を屋上から落下させてしまう。

    罪。二人も殺してしまった罪。いつか自分を振り返り過ごした時間に時代という言葉を冠するときがくるなら、青の時代があり、そして赤の時代があり、しかしその全てもやがて潰えてゆく。私は「死」の恐怖に怯えながらも、それなりに懸命に、そして健気に、私は私なりに生きてきたのだ。青い血をかつて流したことも、自分が犯した罪も、私が私を深い海に沈ませることで容認されるだろうか?許してください。

    こんななおの心の叫びを想像してしまう。
    過去に蔓延った心の闇ゆえに自身自身を、かつて兄がしたように首吊り自殺を実行し破壊することで終わらせる。という幕引き。


    素晴らしいと心から思う。個々の人生のドラマは死ぬ間際になって悲喜こもごも理解出来るというが、きっとなおはやっと楽になれたのだ、と思いたい。

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    2010/08/23 16:33

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