愚者と星と死神についてのいくつかの考察 公演情報 feblaboプロデュース「愚者と星と死神についてのいくつかの考察」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

     観てホントに良かったと思える作品、華5つ☆!  若干説明を加えた(8.2)

    ネタバレBOX

     この素敵なタイトルはタロットカードの絵柄から来ている。自分自身は占いという一種の経験則を全く信じないとは言わないが、それが占い師の人生経験や経験則を基にした判断に過ぎないと考えるので神秘主義的な解釈は全く信じない。とはいうものの、とても素敵なタイトルではないか? 内容的にも無論、この素敵なタイトルを裏切らない。而も、今迄演出を中心に、脚本は脚本家が書いた物を主として上演してきた演出家・池田 智哉氏初の長編戯曲である。言葉と散々格闘してきたことが明らかな聡明な池田氏の書いた初の長編は、言葉そのものの鬩ぎ合いが実にヴィヴィッドに、而も一見人間としての基本が落剝したとしか思えない最近の日本社会の劣化状況に於いても有為な若者たちが紛れもなく存在し凌ぎを削っている現実を見せつけて希望の芽を見出さずには居られない。これだけ良い作品が出来上がっているのは無論偶然ではない。新宿の小さな小屋で数々の優れた作品を上演して来、その演出を手掛け、歌舞伎町という世界を代表する不夜城の一つを観てきた経験からの観察眼と優れた洞察力、観察対象からの適正な距離の取り方と対応を通して得た諸々の情報を分析・統合して判断する力、そしてそれを適格に言語化する力それら総てが相俟っての結果、設定が絶妙である。物語が展開する場も適切。因みに登場人物は総て女性である。
     オープニングから暫くは、ホントにアホだよな! と呆れるようなアホな会話をするこのバーにやって来た客も登場する。が、近頃流行りのジェンダー論やハラスメントに関わる論議のうち今作で扱われるのは後者である。というのも今作に登場するのは総て女性だから直接的にはジェンダーの入り込む余地がないのだ。
    掴みでは素人の占い師が、このバーで働く娘を占っている。この時に出て来たカードがタイトルにも用いられている死神、愚者、星であるが、タロットカードは正の位地から見る場合と逆の側から見るのとでは意味が反転する。そういったカードの持つ二面性をも極めて上手く織り込み、才能の弱肉強食の世界に生きる芸人やユーチューバーVS既存の社会体制の中である位置を占めて生きている女性たちとのギャップを今流行りのジェンダーとハラスメントのうち後者を軸に炙り出し、良くメディアで謂われる内向きの日本人達が作り出している現代日本の人間論をではなく、寧ろ未だに御家制度を内在化させたある程度裕福で実存と向き合わずに過ごすことが出来、一応御家制度内の人間として振舞っていれば人間として最低限必要なコミュニケイションの最低限迄欠落させても生きてゆける結果、一神教の世界では当然な神と対峙する人間存在としての実存を生きる必要が無い為、人間としての内実迄喪失した状態をも浮かび上がらせつつ(これが冒頭に出てくるアホな客であるが、このキャラの名誉の為に申し述べておくなら、現在彼女が身を置いているのは芸人の世界。然しこの世界に彼女が入ったきっかけは友人が勝手に彼女のプロフィールを書いて養成所に応募し試験も通ってしまったので同期とコンビを組むことになった、という経緯があった。然し養成所の先輩からコンビが売れないのは、この女性の所為だと詰られたのがきっかけで、相方は才能があるのに自分が足を引っ張っているせいで彼女を芸人として成功させることができない、と悩み、妙案も浮かばず頼ったのが占い。占いのペースは1か月に百件も占ってもらうレベルで肝心の稽古もすっぽかす有様。だが、それほど真剣に悩み自ら決めきれないことの中に御家制度が深く息づいているように思われる)そのような現状に対して、どのように対峙してゆけば良いのかの示唆迄与えている。前段でアホにしか見えないキャラとして登場するのが、この実存を剥奪され而もその事実に気付きもしない女性ということになる。自分自身はガキの頃から協調性に欠けるといつも通信簿に書かれ続けたキャラでもあるし、海外で暮らした経験もそれなりにあるので人間が実存として各々生きることが当たり前であるという価値観の上に立つから、己の生き様を己自身で決められないというのはアホにしか見えないのが取り敢えずの判断になる訳だ。とはいえ各々様々な人生があり、その人生を生きる他の術は無いから各々が自らの位地を占め尚且つより稔りのある人生にする為に力になるのは、矢張り他者とのコミュニケイションを於いてはあるまい。而も一神教の諸外国人に比し日本人の多くは最低限のコミュニケイションを紡ぐ方法を知らない者が多すぎるようには思う。今作はそのような日本の状況をあくまで個々の関りを通して浮かび上がらせているのみならず、その恐らく唯一有効な対処法を提示している。その点が素晴らしいのだ。
     どの演者も良い味を出しているし、役を生きている。観て本当に良かったと思える作品である。

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    2024/07/30 11:06

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