キセキの人 公演情報 スーパーグラップラー「キセキの人」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    「キセキの人」から奇跡の人々になれたら・・・
    「悪がテーマのスリリング御伽草子」。
    この解説から、多少の恐怖は覚悟して座席に着きました。

    幕が開くまでの間、美しい装丁のプログラムをゆっくり読み込むことに・・・

    すると、

    突然、底の見えない群青色の滝壺に飛び込み、
    夢中で水面を目指せども、身体が浮いていかない混乱。

    または、

    ふいに、藪の中に迷い込み、行けども行けども
    闇ばかりまとわりついて、逃れられないあせり。

    そんな混沌の中で、突然現れる人間(?)たちの、不思議な不思議な魅力。

    このプログラムは、御伽草子の世界への扉。
    その中へ進んでいくと、あっという間に幽玄な中世代に迷い込んでしまいました。

    (武田和香さんのデザインによるプログラム、素晴らしいです!
     皆様も、幕開け前に是非一読を!)

    ここからは、作家さんのこの作品に向ける想いや、現在の心境、
    このカンパニーのみなさん、スタッフのみなさんに結ばれた
    熱い絆も読み取ることができます。

    また、見逃してしまうかもしれない、この作品の根幹になるテーマへと導く、
    まるで母体と赤子とをつなぐ「へその緒」のような繋がりも得られるように想いました。

    こんな、「ちょっぴり予習」をしているうちに、いよいよ、開幕です。
    つづきは、「ネタバレ」にて。

    ネタバレBOX

    観劇後、自宅にて「酒呑童子」について調べ、改めて、この作品の深さを知りました。

    酒呑童子が置かれた「キセキ」という立ち位置には、三つの意味があるように思いました。

    一つは、鬼籍=キセキ(死んだ人の名前が記される帳面)に載せようにも、
         名前も(その存在さえも)確認されていない、ある魂が、
    二つめ、自分は何者であるかを訪ねる旅の軌跡=キセキを通じて、
    三つめ、ついにその存在を知る奇跡=キセキを起こす。
         いくつもの悲しみを生み出しながら。

    そう表現すると、とても重たい印象をうけますが、

    舞台は、幽玄でありながら、お笑い好きな現代人に優しく、

    目に見えないものへの恐怖を、突然投げつけながらも、
    「これも有りなのさ・・・」と、頼もしく、

    人間の心深くに潜む、「悪」について、
    えぐり出すような痛みを与えておきながらも、
    「みんな、一緒さ・・・」と、フォローしてみたり、

    全編を通して、善も悪も受け入れていく、
    深い人間愛が、脈々と流れているように感じました。

    だから、人間界に強い恨みがあるために、鬼にならざるを得なかった者たちが、
    やたらとチャーミングで、むしろ、登場する他の人間達よりもずっと、
    観る者の心に近づいてくる。
    鬼を、受け入れ、同情してしまっている自分に、驚く。

    その心境になると、妖怪退治四天王の統括を命じられた、源頼光がラストにて、

    突然命を奪われた妻道子と、
    その胎内に存在しながら、生まれ出づることのかなわなかった、
    赤子(酒呑童子)の無念さに、狂うほど、哀しみ、
    それでも、愛する二人が、鬼となりゆく前に、
    自分の手で、その魂さえも、切り裂かねばならなかった、
    想像を絶する苦しみを、ともに知ることができる。

    辛かったです、耐えられない痛みでした。

    ただ、ひとつの救いは、
    その純粋さゆえに、自分がどんな存在か知らぬまま、
    人を喰い、命を奪う悪事を重ね、「鬼」へと変幻してゆく赤子、酒呑童子が、
    すんでのところで、
    長く苦しい旅の中で探し求め、何よりも知りたかった、
    自分の母と父を、その目で見ることができたこと・・・

    けれども、それもほんの一瞬のことで、幻のようでもあった。

    切ないです。ほんとに、悲しかった。心が、痛かった。

    でも、「キセキの人」を観た観客が、この心の痛みを持ち帰ることは、
    とっても、大事なことなのでしょうね。

    最近の、子どもや、お年寄りなど、社会的弱者が巻き込まれる事件の
    なんと、陰惨なこと・・・

    「こんな悲しい思いを、してもさせてもいけない!」
    そんな決意と、

    でも、やっぱり、どんなに苦しくても、力強く笑って生きる人間って、美しいよね!
    そんな、人間愛を胸に、これからを共に生きて行けたら、素晴らしいですね!

    「キセキの人」を創り上げた人々と、それを魅せていただいた人々が、そんな
    絆で結ばれたら、それも、ひとつの奇跡ですね。

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    2010/08/21 16:16

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