OVERWORK 公演情報 キュイ「OVERWORK」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    キュイ主宰である綾門優季さんによる三部構成の連作短編集『OVERWORK』のうち第一部『予想で泣かなくてもいいよ』(演出:綾門優季さん)と第二部『あなたたちを凍結させるための呪詛』(演出:松森モへーさん)の二作を上演。第三部『予定された孤独』は升味加耀さんによる台本の編集・台詞の追加と削除が行われた上演台本を公開。

    ネタバレBOX

    第一部『予想で泣かなくてもいいよ』(演出:綾門優季)。3人の登場人物によって同時多発的に語られる心の内、その想像は重なり、混ざり、早速誰が何を言っているのかが分からなくなっていく。「目の前の人が話している内容が聞き取れない」という心的ストレスを反射的に抱いてしまってすぐに、いや、これこそまさに水面下で起こっていることそのものだ、と背中を冷やした。人が仕事に向かう時、帰る時、最中に、また、職場でなくとも仕事について考えている時に脳内や心中で常に行っていることで、当然私もやっていて、なんて騒がしいのだろう、これだけで十分壊れてしまいそうだ、とつくづく感じた。

    第二部『あなたたちを凍結させるための呪詛』(演出:松森モヘー)は語りとともにスープが着々と作られていく様、そのある種の連動と対比が訴えるものの強さに圧倒された。(実食こそがその本質ではあるのだけど)命を明日へと繋ぐ行為とも言える料理が進めば進むだけ精神が擦り切れていくようで、労働への疲弊や鬱屈、そのことによる心身の破壊が、こちらの目や耳や、食べてもないけど口や、そして脳や心を揺さぶるように調理を通して可視化されていくみたいだった。松森モへーさんは本当に似ている人がどこにもいない、素晴らしい演出家であり俳優だと改めて痛感しました。

    どちらも想像の終わらなさと想像の及ばなさが同じくらいの波の高さで押し寄せてくる上演だった。職場の環境や過労、仕事による心労が人を壊してしまうことを初めて実感したのは大学生の頃だったな、と思い出したりもした。当時付き合っていた恋人が仕事によるストレスで笑顔を失ってしまった。出勤時、昼食時、帰宅時に毎日きっちり3回送ってくる「行きたくない」、「帰りたい」、「もうやめたい」というメールによって、私もまたどうしていいかわからない戸惑いと何もできない不甲斐なさから心を病んでしまった。あの時、私もまた想像をしながら、想像が及ばなかった一人だったと思う。多分、私が思う何億倍も彼は辛かったはずだろうと。
    それから15年が経っているけれど、劣悪な労働環境は滅びる気配はない。コロナという前例のない大事態から仕事の在り方は大きく変わったように見えるけれど、その実コロナ以前から取り残されたままのことばかりだという印象もある。コロナ is over なムードが漂う中で今この公演が再演されたことはすごく重要な意味を持っている。何も終わっていない。戦争も。“世界から滅びても良い仕事”は、その内容を指しているのではなく、そういった人の生活や心を破壊していくような仕事や仕業を指しているのだとも思った。私もそんな仕事は滅びてほしいと思った。そう思いながらその仕事に日常を支えられていたり当然するのだろうとも感じた。想像をした。

    しかしながら私は「想像力!」とことあるごとに子どもに言ってしまっている母だと思う。
    ある時娘が言ったのだった。「想像しているうちに怖いことばかり思い浮かんでくる」「だからもう想像をしたくない」と。泣き出したこともあった。「ママが死ぬところまでいってしまう」と『予想で泣かなくてもいいよ』という言葉からはそんなことも思い返していた。
    観られてよかった。

    0

    2024/07/01 18:50

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大