OVERWORK 公演情報 OVERWORK」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 4.0
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  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    直前に飯を(しかも消化の良くない)食って観劇に臨んだ。この所観劇中のうたた寝がなく完全に油断していた。第一部の後半1/3と第二部の前半1/3を見失ってしまった。二演目の間に中央手前に調理台となるテーブルが出て来るが微かにその記憶があり、演目の境目と認識しなかったような体たらくであったが、中々面白いと思わせるものがあった。
    綾門氏のテキストも久々。モノローグ系の戯曲を書く作家の中では最も早く目にした(というより聴いた)人だが、恐らくそれは変わらないだろう、息の詰まるシビアな現実(又は心的風景)を書いてるに違いない、という予想はその通りだったが、言葉が立っている。睡魔の中では言語が逐語的な理解に到達させないがその手前の所で、語感やリズムで感覚的に伝えて来るものがあり、流石と思う。美術批評家椹木野衣氏の言う作品を「丸ごと飲み込む(食べる)」という奴か。
    ニュアンスの伝達は役者の貢献である。

    第一部は3名がそれぞれのモノローグを別個に、日々のルーティンを象徴する動きをしながら、時に折り重なって吐き続ける。第二部は一人によるモノローグを、松森モヘー氏がテーブル上で野菜を切り出す所からスープを作りながら、喋り続ける。マイクを通して時に加工した声を使ったり音楽、照明、ある種のパフォーマンスに勤しみながらとにかく喋り続ける。語る主体は女性と思しかったが、人物が一人なのか別人物をも演じているのかまでは判らない。中野坂上デーモンズを私はほぼ初めて観たが中々の迫力であった(テキストはきっと報われたろうと思わせた)。
    日本社会の絶望は根が深い。立ち上がらないからであり、立ち上がらせない力学が働くからであり、切腹だけが最後に溜飲を下げさせる唯一の手法だという倒錯の文化を有難く引きずり続けているからだ。自分もそこにどっぷり浸かっている。

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    キュイ主宰である綾門優季さんによる三部構成の連作短編集『OVERWORK』のうち第一部『予想で泣かなくてもいいよ』(演出:綾門優季さん)と第二部『あなたたちを凍結させるための呪詛』(演出:松森モへーさん)の二作を上演。第三部『予定された孤独』は升味加耀さんによる台本の編集・台詞の追加と削除が行われた上演台本を公開。

    ネタバレBOX

    第一部『予想で泣かなくてもいいよ』(演出:綾門優季)。3人の登場人物によって同時多発的に語られる心の内、その想像は重なり、混ざり、早速誰が何を言っているのかが分からなくなっていく。「目の前の人が話している内容が聞き取れない」という心的ストレスを反射的に抱いてしまってすぐに、いや、これこそまさに水面下で起こっていることそのものだ、と背中を冷やした。人が仕事に向かう時、帰る時、最中に、また、職場でなくとも仕事について考えている時に脳内や心中で常に行っていることで、当然私もやっていて、なんて騒がしいのだろう、これだけで十分壊れてしまいそうだ、とつくづく感じた。

    第二部『あなたたちを凍結させるための呪詛』(演出:松森モヘー)は語りとともにスープが着々と作られていく様、そのある種の連動と対比が訴えるものの強さに圧倒された。(実食こそがその本質ではあるのだけど)命を明日へと繋ぐ行為とも言える料理が進めば進むだけ精神が擦り切れていくようで、労働への疲弊や鬱屈、そのことによる心身の破壊が、こちらの目や耳や、食べてもないけど口や、そして脳や心を揺さぶるように調理を通して可視化されていくみたいだった。松森モへーさんは本当に似ている人がどこにもいない、素晴らしい演出家であり俳優だと改めて痛感しました。

    どちらも想像の終わらなさと想像の及ばなさが同じくらいの波の高さで押し寄せてくる上演だった。職場の環境や過労、仕事による心労が人を壊してしまうことを初めて実感したのは大学生の頃だったな、と思い出したりもした。当時付き合っていた恋人が仕事によるストレスで笑顔を失ってしまった。出勤時、昼食時、帰宅時に毎日きっちり3回送ってくる「行きたくない」、「帰りたい」、「もうやめたい」というメールによって、私もまたどうしていいかわからない戸惑いと何もできない不甲斐なさから心を病んでしまった。あの時、私もまた想像をしながら、想像が及ばなかった一人だったと思う。多分、私が思う何億倍も彼は辛かったはずだろうと。
    それから15年が経っているけれど、劣悪な労働環境は滅びる気配はない。コロナという前例のない大事態から仕事の在り方は大きく変わったように見えるけれど、その実コロナ以前から取り残されたままのことばかりだという印象もある。コロナ is over なムードが漂う中で今この公演が再演されたことはすごく重要な意味を持っている。何も終わっていない。戦争も。“世界から滅びても良い仕事”は、その内容を指しているのではなく、そういった人の生活や心を破壊していくような仕事や仕業を指しているのだとも思った。私もそんな仕事は滅びてほしいと思った。そう思いながらその仕事に日常を支えられていたり当然するのだろうとも感じた。想像をした。

    しかしながら私は「想像力!」とことあるごとに子どもに言ってしまっている母だと思う。
    ある時娘が言ったのだった。「想像しているうちに怖いことばかり思い浮かんでくる」「だからもう想像をしたくない」と。泣き出したこともあった。「ママが死ぬところまでいってしまう」と『予想で泣かなくてもいいよ』という言葉からはそんなことも思い返していた。
    観られてよかった。
  • 実演鑑賞

    現代人における「労働」に関する連作短編集。連作は多角的に観劇する機会に繋がるため、テーマが明確な場合はより刺激的。

    ネタバレBOX

    印象的だったのは、「仕事内容より労働環境や対人関係にスポットが当てられている」という点。仕事は「賃金を得る手段」として割り切られ、そこに論点はなく、職場の人間関係に辟易し絶望する登場人物たち。労働含めた社会の構図に対して諦めきったドライな視点が現代の歪さを象徴する。ここから先の希望がほぼ見えない「世界」と、現代人はどう向き合えば良いのか…。良い意味で息の詰まる上演でした。

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