デカローグ7~10 公演情報 新国立劇場「デカローグ7~10」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    7から10を一日で見た。1から通して、庶民生活に起きる小さな話を10個も並べる、しかも「社会主義」ポーランドの40年前のテレビシリーズが元ネタ、というと、普通はあまり食指を動かされないだろう。ところがそれがそうでもない。どの作を見ても、巧みな展開に引き込まれ、登場人物の心理や選択をめぐって、こちらもハラハラ・ドキドキさせられ、大小はあるが確実に心動かされる。それぞれ無関係の話をデカローグ(十戒)という枠で緩く(あるいは緊密に)つなぐアイデアもうまい。
    (つい先日、山田太一「男たちの旅路」シリーズの「車輪の一歩」をDVDで見たが、庶民性、一話完結の連作というスタイル、そして何より各回にそれぞれ異なる強いテーマ性など、共通点がある)

    7「ある告白に関する物語」十戒7盗む勿れ
    22歳の娘マイカは16歳のときに産んだ女の子を、校長だった母親(津田真澄)が実子として戸籍に入れ、自分はその子の姉として生きてきた。うばわれた娘を取り戻すための思い切った反乱。娘は母親に向かって「私の娘を盗んだ!」となじる。6歳のアニャを誘拐することは「これは盗みではない取り戻すだけだ」と。「盗む勿れ」の戒律から、こんな話を着想したところに舌を巻く。
    津田真澄の母親像にリアリティがある。かつて蒸す値を切り捨てたことに負い目はあるが、決して悪人でも冷血漢でもない。アニャを失いたくない悲痛さが胸にしみる。

    8「ある過去に関する物語」十戒8隣人について偽証する勿れ
    ホロコーストの過去をめぐる話。かつてユダヤ人少女を見捨てた女性と、見捨てられた少女の、40年後の再会を描く。テーマは10作の中で随一の注目度だが、内容は10作の中で一番茫洋としている。結末が肩透かしというか、何か不全感が残る。裏切られた少女の話を聞いても、当事者の二人をよそに、大学生たちはケーススタディとしてしか考えない。子の若者たちの姿にポーランドでも戦争体験の風化が示唆されているのかもしれない。

    9「ある孤独に関する物語」 他人の妻を欲する勿れ
    不能になった夫(外科医)と、不倫する妻。しかし、妻の不倫は、相手の大学生に押し切られたもので、妻は夫を愛している。よくある夫婦の疑心暗鬼と心理戦なのだが、夫の不能という設定が、男としてのプライド、夫としての自尊心にかかわるヒリヒリした問題にする。妻を疑う夫の行動と、情事がばれるかどうか、夫はどういう行動に出るのかに目を離せない。これこそどうでもいい小さな話のはずなのに、芝居に引き込まれ、一喜一憂させられた。

    10「ある希望に関する物語」他人の財産を欲する勿れ。
    父が莫大な価値を持つ切手コレクションを遺した、兄弟の話。人情としては、よくわかる話。天国から地獄へ、見事な落差を作って見せる展開がうまい。番犬として本物の犬が舞台に現れ、言うことを翌期うのはユーモアが漂い、舞台がなごんだ。

    ネタバレBOX

    7:最後はアニャは津田のもとに残り、娘マイカだけが、一人列車に飛び乗る。娘の誘拐・反乱は失敗しtが、成功した時の、今後の苦労を考えるとハッピーエンドと言える。去っていくマイカにアニャが大声で叫ぶが、列車の音がうるさくて聞こえない。その口は「ママ」と叫んだように見えたが、違うかもしれない。いずれにしても、その姿を見てマイカは泣き崩れる。救いのあるラストである。
    8:ゾフィア教授は「本当の事を知ったらがっかりするかもしれないよ」という。少女をかくまうためのカトリック洗礼の代父母にならなかったのは、戒律のせいではなく、そのかくまうという夫婦がナチのスパイという情報が来たためだったという。戒律の為というのは嘘だったと。でもその女王法は間違いだった。そのかくまうはずの夫婦は、もう少しで地下軍に粛清されるところだった。
     二人にある種の和解した後、エルジュビェタはそのかくまいうはずだッととこ(仕立て屋)のもとに行く。男は「戦中のことは語りたくない」と何も言わないが、去っていく二人を見て、弟子に「知り合いだ。生きていたんだ」とつぶやく。
     かくまい役の夫婦(男)にわざわざ最後にスポットライトをあてることで、問題の広がり、裏切りと疑いの時代の傷の深さを示しているのだろう。


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    2024/06/30 13:55

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