新ハムレット 公演情報 早坂彩 トレモロ「新ハムレット」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    太宰治の小説『新ハムレット』を舞台化した本作は、小劇場でありながら大掛かりで完成度の高い舞台美術と照明、そして俳優の演技に魅了される作品となっていた。

    ネタバレBOX

    『新ハムレット』は(小説の冒頭に太宰の言葉で説明されており、それは上演作品の冒頭でも読まれていたが)元々戯曲として描かれたのではなく、しかもシェイクスピアの『ハムレット』とは展開も結末もかなり違っている。したがって、戯曲としてというよりは太宰の小説として楽しむテキストであるが、トレモロはそのことについて明らかに自覚的であった。というのも、俳優は大振りな演技でもって太宰の書いたセリフを演じており、その文体を存分に聞かせるものとなっていたからである。太宰を連想させる人物が舞台上を徘徊していることからも、観客に太宰を常に意識させる造りになっていることは明白である。
    特筆すべきは舞台美術と照明、衣装の美しさである。昭和モダンの雰囲気を醸しつつも完全な昭和時代のリアリズムにはせず、ファンタジーとの折衷的世界が展開されていた。こまばアゴラ劇場は決して広い空間ではないが、実際よりもかなり広いように感じられたことから空間演出の秀逸さが窺えた。
    他方で、なぜ『新ハムレット』を取り上げたのか、という点についてはわからないままだったのが残念だった。すなわち、『ハムレット』でもなく太宰の他のテキストでもなく、なぜ太宰の『新ハムレット』だったのかを観客に納得させるだけのテーマが見えて来なかったのである。確かに太宰の文体は面白いのだが、それは読んでもわかることである。太宰自体が小説であるという点を強調している以上、この点についての演劇側の解釈や応答はそれなりのものでないと説得力がない。空間演出や俳優の演技が豪華であっただけに、もったいない上演だったと言わざるを得ない。

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    2024/06/26 11:16

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