除け者(ノケモノ)は世の毒を噛み込む。 公演情報 キ上の空論「除け者(ノケモノ)は世の毒を噛み込む。」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    「性に支配される人々の末路」

     承認欲求を満たすためにグレーな商売に手を染める主人公と彼の顧客の姿から、性や家族のあり方を問う力作である。

    ネタバレBOX

     17年間家に引きこもっていた37歳の正木円治(藤原祐規)は、篠田純(山口快士)の斡旋によりカップルの依頼で女性パートナーを寝取るというセックスワークに従事している。依頼者はさまざまで、パートナーの歌音(平野紗貴)が円治に寝取られている様子をアイマスクをして聞き耳を立てている太郎(家入健都)や、付き合った当初から妻の三崎キョウ(小松原怜香)を誰かに寝取らせることでしか満たされない星野波瑠(田名瀬偉年)など、倒錯した性癖を持ち合わせている人物たちである。

     情事を終えた円治は三崎に引きこもりになった理由を打ち明ける。彼は小学校5年生のときに担任の汲田先生(藍澤慶子)から注目を浴びたいばかりに優等生めいた行動をしたことで、同級のキヨシロー(小野塚渉悟)らに目をつけられクラスから浮いた存在になってしまい、学校に行けなくなってしまったのだ。円治は社会からの承認欲求に飢えており、それを満たすために寝取り屋をしていることがここで明かされる。

     あるとき円治は三崎と星野から、子どもを作りたいので精子提供をしてほしいと持ちかけられる。戸惑う円治だったが相談した篠田や太郎、歌音にそこまで重く受けとめるなと返され、子どもに父親であることを明かさないことを決めて依頼を承諾する。自分が社会から必要とされていることに満たされた気持ちになった円治は、以降も数名の依頼を受けて精子提供を行い、ある日ネットゲームで知り合ったハンドルネーム「イワクラッシュ」(南出めぐみ)の紹介で「エース」(藍澤慶子・二役)という女性を紹介される。汲田先生の面影を感じる彼女の登場に円治ははからずも浮き立つが、これが思わぬ悲劇を生むことになる。

     本作第一の魅力は手際よい舞台展開である。円治を演じた藤原祐規以外のキャストは何役か兼ねて円治の現在と小学校時代、そして三崎と星野のカップルの現在と高校時代(演じたのは 小町実乃梨と板場充樹)を並行して描く。重いテーマながら手早く目まぐるしい展開のため、消化不良を起こすことなく2時間ちかく観続けることができた。これで円治が寝取り屋をしている動機と三崎・星野カップルが円治を頼る理由はわかったが、やや過剰で説明的になってしまった感は否めない。いっそ円治もしくは三崎・星野カップルのどちらかを重点的に描いたほうが論点がスッキリしたと思う。

     くわえて、長いあいだ引きこもっていたわりにはすでに評判のいい寝取り屋になっている円治が、オンラインゲームのオフ会で出会った篠田からの提案を受けどのような遍歴を経てきたかや、小学生時代の回想でちょっとだけ出てくる母親[平野紗貴・兼役]との葛藤も描かれていなかったため、円治の人となりを把握することが難しいと感じた。周囲の状況に流されるまま寝取り屋から精子提供者になった円治の浅薄さをリアルに感じることができなかったのである。そのため円治との関係を知り激怒した夫からDVを受けたエースが病院に運ばれた報を受けてのイワクラッシュの批難が、私には理不尽かつ一方的に感じられてしまったし、最後に天から赤ん坊の人形を数体落として円治の胸の内を描く演出も今ひとつ腑に落ちなかった点は残念である。

     性行為の描写をフラフープを使い戯画化したり、円治がトイレで精子を採取した様子をカプセルを出して描くなど、デリケートなテーマをライトに描いたところは独特であり、私はユニークと思った。ただしこうした描写に違和感を抱く観客もいただろうし、いじめやDVの話題も入ってくるため、事前のアナウンスは必要だったように思う。

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    2024/05/17 09:34

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