(あたらしい)ジュラシックパーク 公演情報 南極ゴジラ「(あたらしい)ジュラシックパーク」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    「独自の劇世界が描く青春模様」

     2020年に『贋作ジュラシックパーク』を発表した脚本・演出のこんにち博士が新たに取り組んだ作品である。

    ネタバレBOX

     物語は全4話であり、全編を通し映画『ジュラシック・パーク』で紹介された方法を模して新しく作られたというパークで展開される(この設定がまずおかしい)。第1話「お天気ボックス」は新しいジュラシックパークで生まれ育った主人公・湾田ほんと(端栞里)とその同僚や友人たちの日常が描かれる。できる仕事人を夢見る湾田だが同じ「小型草食恐竜管理室」チームのアルミ(九條えり花)に任された仕事を台無しにしてしまい、微山治夫(こんにち博士)には先を越され、リーダーのメガマック(TGW-1996)からの評判もよくない。窮地に陥るとAIコーチの明星(井上耕輔)を呼び出しては助けを乞うことがお決まりである。仕事終わりに友人のドゥドゥ(古田絵夢)と語らう時間が息抜きになっているが、周囲からは白い眼で見られている。

     たまたま花形部署の「大型肉食恐竜管理室」に欠員が出たため手伝いに来た湾田だったが、そこで働くシャークウィーク(瀬安勇志)と自分のスキルの差を思い知らされる。そこへパーク外からやってきた中黒二鳥(ユガミノーマル)が、塗れば剛毛が生える「オオカミ男クリーム」のセールスを装い園内に侵入する。中黒は恐竜の胚を盗み出そうとするも、湾田たちの仕事の失敗に巻き込まれ散々な目に遭ってしまう(第2話「オオカミ男クリーム」)。

     ある日湾田はコピー人間造りを企んでいる浮卵博士(和久井千尋)と遭遇する。その半年後、パークには湾田と姿がそっくりだが格段に能力の高いワンダー(揺楽瑠香)が入ってくる。この半年間に同僚たちもそれぞれ能力があがり、湾田はひとり不貞腐れ気味だ(第3話「人間製造機」)。そこに来た博士は自作の人間製造機を使えば、湾田とワンダーの脳みそを入れ替えることができると話を持ちかける。一度はその話に乗った湾田だったが、自身の決断には迷いがあるようで……(第4話「エアポッツ」)。

     全4話の物語は湾田の成長譚として一本筋が通っており、ほかにもさまざまに小ネタが仕込まれているため単独でも愉しめるようになっていた。他の誰も真似できない独自の作品世界を創造した点は注目に値するが、満場の客席に過不足なく伝わっていたかは疑問が残る。ジュラシックパークの設定であるとか科学技術の説明に馴染むまでかなりの時間を割かなければならなかった点に加え、小手先のギミックにこだわりすぎるあまり各登場人物の掘り下げが浅く、肝心の若者の成長や青春模様が十分に描けていたとはいいがたい印象を受けた。終盤で湾田が漏らす、自分が凡庸な人間とわかりきっているが特別でいたいという嘆きは万人の共感を得るものだし、最後にとる選択も納得がいくものであるため惜しい。

     ジュラシックパークのセットや恐竜の模型など手作り感あふれる舞台美術は手が込んでおり、プロローグの出演者による合奏を含め、作りたいものや見せたいものを舞台に上げたのだろうなと深く得心した。しかし実際に紙製の素材でできた恐竜や作り込んだ特殊効果を舞台に上げても、映画のそれと比べれば見栄えで劣ってしまうのはわかりきった話である。だからこそ舞台上では俳優の芝居と観客の想像力に託し、たとえば暴れまわる恐竜の様子を語り物のようにして伝え、生々しい恐怖感を与えるという手法も考えられたのではないか。

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    2024/05/12 17:51

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