実演鑑賞
満足度★★★
同時上演の『Le Fils 息子』と同じく家族に訪れる危機を巧みに描いた一作。家父長制を基盤とする「家族」に生じる歪みを描き、子が自立した母に訪れる「空の巣症候群」を通して「母」という存在を問い直しているという点では今の日本で上演する意味も大いにある作品だと言える。
だが、上演時間の大半を母の「狂気」を描くことに費やし、しかもそれをことさらに笑えるものであるかのように提示する手つきには疑問を感じる。妄執に取り憑かれた母の姿はたしかに滑稽かもしれないが、それは本人が真剣だからこその、ほとんど悲愴と見紛うばかりの滑稽さであるはずだ。